#8 再会
田舎町の中心街へ辿り着いたとはいえ、何も持っていない。手ぶらでいるが不思議と落ち込む状態には陥っていなかった。早樹の制止で限界を乗り越えられた点もあるが、やはり死が近い状態なら対した問題ではないらしい。
「さて、どうするか」
とはいえ田舎。中心街でもこの時間はほとんど店の明かりすらない。真夜中に歩道でただ1人。すると、背後から車のライトが近付く。声がする。
「ねえ、大丈夫?」
振り返ると、運転席からお婆さんが顔を出していた。
「良かったら、家に泊まるかい?嫌ならいいよ」
「……いえ、遠慮なく泊まらせてください」
「…そうかい。じゃ、乗りなさい」
男勝りなお婆さん。白髪で皺がある割には言動が若い。こういう人は芯があって安心する。
白の普通車に揺られ、和風漂う一軒家に到着する。自由に2階の和室を使ってもらった。息子さんが昔使っていたらしい。といっても、その息子さんは遠い地で家庭を築いているのか、部屋にいた痕跡すらない。ただの和室。風呂もトイレもシンプルな服も貸してもらった。いくら紫色の痣を左斜め半分あったとはいえ、親切な対応をしてくれる。詮索もしない。
ひとまず1ヶ月間はここへ留まった。
しばらくして、コンビニへ1人散歩がてら出掛けた。何となくパンコーナーを眺めていると、奥のスイーツコーナーで1人の男が眉を寄せて吟味していた。彼を見た瞬間、悟った。
(この時をどれだけ待っていたか)
死による呪いの解放と恋の残り火は今目の前にあった。
(佐古……)
少し太ったけど何もかも変わっていない。高校の時より、穏やかになった?
声は掛けられなかった。が後をつけた。
ビジネスバッグと運動着。恐らく会社終わりにジムに寄ったのだろう。1つか2つしかないからすぐにジムの寄り所は判明できる。電柱裏や数メートル後を足音なしに彼を追った。上手い尾行とはいえないが、思いの外成功した。そのまま彼のマンションを特定できた。
「部屋番号さえわかれば」
入り口まで寄り、彼が宅配ポストを開けた。確認してがてらエレベーターに乗った。
「多分、203」
後日、早樹と別れた時から着ていなかった黒の革ジャンを着用した。彼のマンションまで寄り、2階へ階段を登り、インターホンを鳴らす。
中から低めの声がする。
「はいはい」
扉が開くと、そこには彼が立っていた。
「あの?どなた様?」
ビンゴ!!
「………佐古」
「……なんで名前を?」
「あたしよ。万理よ」
「え。……は。へ。は。………万理!?」
久々の再会であった。
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