第9話 仏様からの説法

「1つ、貴方はまだまだ世の中を知ってません。なので、沢山知って下さい。沢山知って、行動して、経験して下さい。2つ、完璧じゃなくて構いません」

「完璧じゃなくていい?」

「はい。先の通り、貴方は恋愛や運動や友達などなど苦労してきたと言ってましたね」

「はい、まあ」

「別にどれも果たす必要ないんじゃないんですか?」

「ええ、まあ確かに。でも自分は1人で生きたいのでかんけ…」

「そこです。その1人で生きたいという信念は非常に傲慢です。間違ってませんが危険です」

「……傲慢」

「ええ、これが3つ目。ひとまず貴方の状況を振り返ると」

何だろ?説教されているのか?でも、不思議と嫌な気持ちにはならないし聞いた方がいい気がする。

「貴方は身寄りがなかった。成長していくにつれて自分だけは不幸だと思い込む。学校にいればさぞ辛い。次第に精神にダメージを來し、他人を信じなくなる。そんな時、若い学生ながら唯一の希望、勉強を見つけた。しかしその勉強も意味がなくなった。で、今に至ると」

「はい」

「なるほど。これは気付かぬうちに、自分だけしか頼りにしかならないと思い込んでしまいますね。若い時は特に白か黒かハッキリしたがります。しかもまだまだ世の中を知らない。障害者でも働けること自体知らない口ぶりでしたし」

うっ!図星だ。

「…ふふ。当たっちゃいましたかね」

「…ええ…」

「さて、長くなりましたね。私はそろそろ用事があるので失礼します」

えっ。肝心の結論は?お坊さんは規律よく立ち上がる。

「あの」

「はい?」

「えと、結論は?結局僕は世の中を知らなくて完璧主義で傲慢なら、僕は一体どうすれば」

「おっと、これは失敬」

おいおい。笑顔で僕はお坊さんを見つめて答えを待つ。お坊さんは一息かけて答える。

「思い切って頼りなさい。行動して世の中を知りなさい。灰色思考で、思いやり、慈悲深さを手に入れなさい」

慈悲深さ、灰色思考、世の中を知り、頼る。難しいけど、意識してみよう。

「求不得苦。求めても、求めても、人は苦しみ続けてしまう。なれど、求めなくて構いません」

っ!!

「求めなくていい……か」

意外だ。幸福って何かを目指して努力する以外に得れるんだ。

「そして、悪しきことを辞め、善きことを心がけなさい。では、貴方の人生に幸せが訪れることを祈ります」

そう言って彼は手を合わせて深々と僕にお辞儀をした。格別なお辞儀だった。様々な困難を乗り越えて至った作法と礼儀が全身から伝わる。

すごい。人ってこんなにも輝かしいオーラを纏えるのか!?

たまたま廊下の窓からオレンジ色の陽が彼に当たっていたとはいえ、その時は何にも言い表せないくらい神秘的な仏様に見えた。

傲慢な僕はこの日を境に少しずつ変わっていった。

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