親愛なるあなたへ

灰の子

たより

親愛なるあなたへ


あなたの誕生日にあげたGUCCIの折財布がメルカリで売られていた。


プレゼントが苦手だから時間をかけて選んだ。

似合うと思っていたし、喜んでくれてこっちまで嬉しくなった。

そんな思い出が出品されているのを見ても、怒りや嫌悪といった感情は無かった。

ただ説明しがたいものが心に詰まっていた。


あなたとの関係が永遠に続く事はないと知っていた。

だけどその理想にすがっていたかった。

周りの目は冷たくて、理解を示さなかったがそれでも良かった。

ただあなたの目に映っていればそれだけで満たされた。


自惚うぬぼれでなく、あなたから愛をもらっていた。

根拠はないがわかる。

あれは愛だった。

そのお返しができていただろうか。

愛をあなたに与えることができていただろうか。

今となっては聞くことができない。


折財布の形をしたブランド品の愛はあなたを想っていた頃よりずっと廉価れんかで、それなのに当時から変わらず美しいままだった。


もう友達に戻ることもできない。

もう話を聞いてもらうこともない。

もうあなたと触れ合うこともできない。

なのにまた、次に向けて進まなければならない。

人はそう簡単に死なないから。


安らかに眠れ


あなたの最後の恋人より

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親愛なるあなたへ 灰の子 @tike_ash

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