第3話 初クエストでダンジョンに潜ったら連携技でボス粉砕してた件

冒険者ギルド《黄昏の角笛》。

朝から活気に満ち、依頼掲示板の前には今日も大勢の冒険者が群がっていた。


「おーいレナ嬢ー!今日はいよいよ、初任務だなーっ!」


ギルド長ボルドーが、パンパンに張った筋肉で手を振ってくる。

レナは微笑を返しつつ、受付カウンターへ向かう。


「ミーナ、報告よろしく」


「はい、お嬢様。体温36.8、朝食完了、装備確認済み。睡眠時間やや不足。あと、前髪が少し跳ねてます」


「それ、重要なの最後のだけでよかった」




今日の依頼は、“初級冒険者向け”と書かれた【東方ダンジョン調査・外縁部探索】。


・報酬金:銀貨20枚

・危険度:Dランク(魔物はスライム~小型ビースト程度)

・依頼主:王立考古学会

・目的:古代遺跡の構造把握と、安全ルートの確保


と、表面上はごく普通の“お仕事”。

だが、それを見たレナの反応は――


「……本当に“外縁部”まで、で済むのよね?」


「“予定では”です」


「その“予定では”がいちばん信用ならないのがこの世界なのよ」


レナの警戒は正しかった。




ダンジョン前。

岩山に穿たれた巨大な洞口の前で、パーティは気合を入れていた。


レナ(剣とスキル吸収)

剣士カイル(物理バカ)

猫耳魔術師セシル(謎に俊敏)

爆弾錬金術師ティナ(不安定)

僧侶ローグ(回復と毒舌)

メイドミーナ(オールラウンダーで実は戦える)


この面々で、いざ突入。


「魔物は少ないって言ってたけど……ん?」


レナが足を止める。


「……床、妙にツルツルしてない?」


そのとき――


ズルッ!


ティナが爆弾入りのリュックごと滑って壁に激突。

同時に、足元の床が“粘液状”に変化した。


「粘液トラップ!これ、擬態型スライムだわ!」


「“ただの床”が敵って、嫌な世界だなあ!?」


レナが剣を抜き、スライムの核を見極める。

そして同時に、スキル発動。


(《模倣:軟体粘性操作》)


靴の裏に粘着力を付与し、滑らずに踏み込んで斬撃!

スライムが悶絶し、核を露出――その瞬間、カイルが叫ぶ。


「任せろレナさん!今だッ、俺の必殺――《剣聖筋肉流し斬り・肆式》!!」


「その技名、そろそろ口内炎になりそうだからやめて!?」


しかし、スライムは見事に撃破。


「すごい連携……!っていうか無駄に息合ってたわね今」


「“俺がぶっ叩いてレナさんが刺す”――これもうコンビ芸でしょ!」




順調に進むかと思いきや。


探索中に、突如セシルが立ち止まった。


「メモ(※魔法文字記述):右前方の壁、魔力の歪みアリ」


「罠か結界ね。近づかないように――」


「“解除して中に入ってみよう”と書いてます」


「まったく話聞いてないな!? ねぇそれ魔術師の癖あるよ!?」


だがセシルの読みは正しかった。

壁の先には、隠し部屋――そして、明らかに通常クエストの“外縁部”ではない深層エリアへと続く階段が出現していた。


「これ、初級依頼じゃなくて……中級ダンジョン入り口よね?」


「え?なんかレアアイテムの匂いがするから行きたいんだけど」


「“行くな”って言葉を知ってる人間がいないの?、このギルド」


ため息をつきつつも、レナは一歩を踏み出す。


なぜなら――こういう“予定外”こそが、冒険の本番だからだ。


「さあ、奥に何がいるのかしら?」




――ダンジョン深層部。

空気は湿り、冷たい石壁には苔と赤い符が張られていた。

まるでここだけが“生きている”かのような錯覚を覚える、異質な空間。


「……音、しないわね」


レナは小声で言った。

普段なら聞こえるはずの水音、魔物のうなり声、空気の振動すらもない。


「完全に“支配されてる”感じ。生態系の最上位が、ここにいる」


剣士カイルが頷いた瞬間――


ズドォン!!


天井を破って、何かが降ってきた。


全員が条件反射で飛び退く。


そこにいたのは――


《地獄吼竜(ヘル=ロウドラ)》


分類:ドラゴン型

等級:C~B級

特徴:音による幻惑と火炎、鱗は半魔力反射性


「なにこのドラゴン……出落ち感がすごい!」


「いや、明らかに“こっちが間違って入ってきた”やつだろコレ!」


「でも、もう目が合ったから逃げられないですよ!」


吼竜の咆哮――空間が揺れる。


「全員耳塞いで!幻惑が来るわ!」


ドォン!!


一瞬、視界がグラつく。意識が朧になりかけたその時――


「はっ!俺は筋肉で音を遮断するッ!!」


「やかましい筋肉!!」


レナは気を取り直し、スキルを起動。


(《模倣:咆哮反響》――対象の音波感知能力を再現し、干渉フィールドを中和)


「OK、幻惑無効化!カイル、足狙って!」


「任せろ!!」


カイルが突撃し、片脚に斬撃を浴びせる。

吼竜がバランスを崩した隙に――


「ティナ!爆弾!」


「はい、特製・中層対応爆炎玉!成分:火薬、混ぜ物、愛!」


「それいらないやつ混じってる!!」


爆炎が炸裂! しかし――


「効いてない!?鱗が反射してる!」


「そういうときは“直で飲ませる”のが鉄則ですよ!!」


ローグが言い放った。


「毒じゃないんだから飲ませる前提やめて!!」


吼竜が咆哮し、火炎を吐く。

魔術師セシルが瞬時に風障壁を張るが、力負けし始める。


「限界!おかわり障壁、間に合わない!」


「わかった、重ねるわ!」


(《模倣:防風障壁》+《筋力強化》)


レナのスキルが障壁と同調。セシルの魔力とレナの身体能力が重なり合う。


――瞬間、風の膜が厚くなる。


「……ん?今の、連携?」


「まさか、私の模倣とセシルの魔法が……“合成”された?」


その一瞬の発見が、流れを変えた。


「よし、連携実験してみよう!」


レナが叫ぶ。


「次、カイルとやってみる!攻撃合わせて!」


「来い、連携筋肉タイム!!」


(《模倣:筋力+剣速調整》)


ふたりの動きが、まるで同じ軌道をなぞるように重なる。


「《双斬・交差破》!」


二人の剣が“X”の軌道を描き、吼竜の胸部を斬り裂く。

鱗が砕け、肉が裂け、血が飛び散る!


「決まった!レナさん、今の……」


「多分、“偶然から生まれた連携技”。名付けて《連携吸収》」


「厨二感すごいけど強い!」


次――僧侶ローグが援護する。


「いくぞ、《祈癒展開:加速型》!」


「それって私の動きに乗せられる?」


「おうよ!聖なる酒の加護を受けな!」


「それ酔うでしょ!?」


だが、確かにレナの動きが軽くなる。回復と加速、そして模倣が重なり――


(《模倣:咆哮+加速+衝撃》)


「吠えさせてもらうわ。貴族式戦闘術、《獣声剣・終式》!」


斬ッ!


吼竜の首が、振り下ろされた一撃により宙を舞った。


静寂。

誰もが息をのむ。


「……倒した」


「連携、できた……!」


「名前とかいらないから、もう全部“ぶん殴り連携その壱”で統一しよう……」


全員がその場に座り込んだ。


「お嬢様……はあ……お背中に血が……あと爆弾の煤が……」


「うん、でも満足したわ。これ、初クエストなんだよね?」


「ええ、Dランクです」


「……どこがじゃ」




「ただいま戻りました~。全員死にかけです~」


レナの報告と同時に、ギルド食堂の空気がざわついた。


「えっ、もう帰ってきたの!?東方ダンジョンって往復だけで1日はかかるって……」


「いや、帰ってきたのが問題なんじゃないか?ドラゴン倒してるらしいぞ」


「……Dランク依頼だったはずが、Bランクボス討伐報告ってどういうこと???」


受付嬢の顔が、すでに「面倒な書類が爆増するやつじゃん」の顔になっている。


「まあ、見てよこれ」


ミーナが書類束を出す。探索経路、撃破記録、戦闘ログ、セシルの魔法録画、水晶による映像――あらゆる証拠が完璧に整っていた。


「優秀すぎて怖い」


「お嬢様のためなら」


「忠義が重たい」




その後、作戦室にて臨時報告会が開かれた。


「つまり、今回の遠征で確認された要点は以下の通りです」


想定ルートの外に隠し通路あり。


深層にBランク相当のドラゴン型魔物が出現。


レナと各メンバーとの連携スキルによる“複合技”が自然発生。


通常模倣スキルと他者スキルの“融合”現象が確認された。


「この融合現象がな……やばい」


ボルドーが真面目な顔で言う。


「普通、模倣スキルはコピーどまり。でもレナの場合、対象者と“共鳴”して、そのスキルが強化された上で再構成される」


「つまり……」


「下手すると、全員分のスキルを“一斉合成”したぶっ壊れ技ができる」


「うわー。使ったら世界割れそう」


レナは頭を抱えた。


「でもさ、私のこのスキルって、たぶん“一人で強くなる”ようには設計されてないのよね」


「ほう?」


「誰かと一緒じゃないと最大限発揮できない。“連携ありき”っていうか、強さの方向が協調型っていうか」


「……それって、」


ボルドーはにっこりと笑って言った。


「――“ギルド向き”ってことだよなあ?」


満場一致で拍手が起こった。




報告会の後、レナたちは久々に全員そろって、ギルド内酒場で一息。


「いやー、今回の連携技、名前つけようよ!」


「出た!筋肉ネーミング大会!」


「第一候補は《俺の筋肉とレナさんの笑顔が交差した刃(クロススマイル・マッスル)》!」


「もう黙ってて!」


ローグが酒をあおりながら言った。


「……にしても、“一緒に戦うことで強くなる”ってさ、冒険者にとって理想形だよな」


「ええ。実際、皆のスキルも個性的で、合わせ方次第でいくらでも広がる。セシルの魔法に合わせて加速、ローグの回復で延長、ティナの爆弾と衝撃吸収……」


「……そのうち《六重合成・世界爆破連携》とかできそう」


「だからそれ、世界が割れるやつ」


和気あいあいとした笑いの中――

その場にはいなかった、ひとりの男がいた。




場所は王都上層部・中央情報管理局。

魔術学院の使者でもある参謀官が報告書を手に、静かに呟いた。


「“融合模倣能力”……しかも、任意発動と複数対象同時展開……」


彼は窓の外を見ながら、淡々と語る。


「危険だな。あの娘、利用するか――処分するか、決めねばなるまい」




その気配に気づいたのか、レナは夜空を見上げていた。


「……まだ何か、面倒が来そうね」


ミーナがそっと差し出すハーブティー。


「お嬢様、敵が何人いようと、私は隣におります」


「ふふ、心強いわ」


レナ=フォン=ヴァルデマル。

彼女の“模倣”は、力だけでなく――人と人をつなぐ絆をも写す。


次なる戦いは、仲間と共に。

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