第6話 憑かれ知らず SIDE G
都心から離れた郊外。
その中心部である最寄り駅と住宅街からも、また少し離れ場所。
遠くの山岳地帯を背にして、一軒のアパートが建っていた。
アパートだったもの、という方が正確かも知れない。
既に入居者はおらず、窓はガラスが割れ放題。壁には地元の不良学生が描いた大きな落書きがあり、階段は錆び付き穴だらけ。
ここは廃墟として放置され、インターネット上のとあるサイトでは、“最恐心霊スポットベスト一〇”の一つとして紹介されている。
この廃アパートの一〇八号室の中に一人の男が佇んでいた。
中身を露出させ腐った畳の上に、スーツを纏った黒縁眼鏡の男が座っていた。
男の体と顔は入口に向けられている。その姿は朧で輪郭はぼんやりとしており、青白く、男の向こう側にある景色が、その体をすり抜けて見ることが出来た。目尻から顎にかけては血の涙の筋が走っている。
この男は、俗名・水田茂正。
戒名は本人も知らない。
一〇八号室で首吊り自殺を果たし、未だにこの場所に留まっている幽霊である。
就職活動が上手く行かず、一縷の望みを賭けて最後に受け内定を貰った会社がなんと、とんでもないブラック企業だった。給料は手取り十六万円を切り、休日出勤も残業も当たり前。上司や先輩から十分な研修を受けたこともなく、すぐに現場に送り込まれ、ミスをすればそれがどんなに些細な事でも大声で怒鳴られ、しまいには人格否定が始まるという理不尽な目に日々遭っていた。
最初の頃は抵抗する元気もあったが、こちらが抵抗すれば、上司たちはより苛烈な手段でこちらをいじめ抜く。
最終的に身も心も疲れた水田は、首吊り自殺という形でこの“生き地獄”から決別することを選んだ。連日の残業や休日出勤での疲弊も、水田から正常な判断力を奪っていったのだ。
そして水田は、まだ天国にも地獄へも行かず、霊体となって現世を彷徨っている。
この世に未練がある者が幽霊になるというが、水田の場合はどうだったのか。
もちろん自身を自殺に追い込んだ上司や先輩への怨みが残っている。死後すぐに復讐を果たそうともした。しかし、元来気弱な性格の水田。霊となって上司や先輩のもとへ行ってみたものの、二人の顔を見ると現世での強いトラウマを思い出し、逃げ帰るという体たらくであった。そういった点ではこの世にまだ未練があるが、水田が現世にとどまっている理由はそれではなかった。
上司と先輩へ復讐を果たせなった水田は、別の方法で生前の鬱憤を晴らしていたのだ。
ある時、若者のカップルがこの部屋を訪れた。カップルの話を聞くにこの廃アパートは、心霊スポットとしてネットで紹介されているらしい。
水田は悪戯心にカップルを脅かしてみた。上司たちは見知った顔だから失敗した。顔を知らない人間相手ならなんとかなるだろう。水田はそう考えたのだ。
血の涙の筋を走らせた青白い自分の顔を、水田は闇の中に浮かべた。
すると水田の顔を見たカップルの男は雄叫びのような声を、女は金切り声を上げて部屋の外へ駆け出していった。恐怖と驚きから目も口も大きく開いている。その上、男の方は涙目になっていた。
「やった!」と、霊体の水田はガッツポーズで快哉を上げた。
現世では上司にも先輩にも後輩にも舐められていた。人から怖がられることなんて一度もなかった。
それがどうだろう。今あのカップルは自分の顔を見て叫びながら逃げ出していった。
水田はこれに味を占めて、来訪者を次々とおどかしていった。
廃アパートの恐怖体験はネット上の口コミでどんどん広がり、来訪者が絶えることはなかったのだ。
人間いちど覚えた楽しみをそう簡単に手放せる訳がない。それは幽霊となっても同じことだ。霊となって人間の頃とは違う新たな楽しみを手に入れた水田が、それを簡単に手放せる訳がなかったのである。怖いもの見たさで廃アパートへやって来る人間を、毎日楽しみに待っている。
「今日は誰か来るかな?」
水田は一〇八号室のドアをすり抜けて廊下に出て、アパートに隣接する車道の方を眺めた。
一台の車が駐車場に停まる。車から降りたのは四人の若者だった。
「来た、来た」
期待に胸が膨らむ水田は一〇八号室へ戻って、来客を待った。
最初に部屋にやって来たのは、いかにもチャラそうな若者三人組だった。
「三人? 来たのは四人のはずだけど……」
ここに来ていない残りの一人は、今ここにいる三人から、いじめか何かを受けているのだろうか。いつもならすぐに姿を現して驚かす水田だったが、今日は趣向を変えた。
後で来る一人を驚かしそのまま背後に憑いて行って、四人全員を驚かそう。そう考えたのだ。
そして、最後の一人がやって来た。
黒いシャツに黒いズボンで、度の強い眼鏡をかけている青年だ。
野暮ったい風貌の青年に水田はどこか親近感を覚えた。
青年は、夜遅くに有名な心霊スポットに足を踏み入れているというのに、表情ひとつ変えず、ただ懐中電灯で室内を照らしている。
「よし! こういう人間こそ震え上がらせるにはもってこいだ」
水田の幽霊魂に火が付く。
青年の背後に近づいた水田は、彼の首筋を撫で、耳に息を吹きかける。
こうやって来訪者の気を引き、相手が「おや?」と思ったところで、姿を現して驚かす。
これが水田の常套手段だった。
しかし、今日は相手の様子がいつもと違う。
水田が触れたことに、青年は気づいていないのだ。
水田が「あれ?」思っている間に、姿を見せるタイミングを失ってしまった。
青年は水田の存在になど気づいていないように、部屋を後にした。
「マズい」と思った水田は、慌てて青年の後ろに取り憑いた。
水田が背後に張り付いても、青年は顔色ひとつ変えない。眉すら微動だにしないのだ。
青年は駐車場で待っていた三人組に合流した。
「いまだ!」
水田は全神経を集中させて、目から顎にかけて血の筋を描いた顔を闇の中に浮かび上がらせた。
三人組は水田の方を見て、息を呑んだ。
「三人組の方は気づいているみたいだが……」
水田は、眼鏡の青年に刺すような視線を送った。
「どうかした?」
青年は同行者三人の異変に気付いて尋ねる。
「お前、後ろに……」
「俺の後ろ……?」
青年は自身の背後を確認しようと振り返ると、
「イヤあッ!」
三人組の紅一点が、しゃがみこんで金切り声を上げた。
「何故だ……?」
今回の水田の作戦は、成功と言えば成功と言えるだろう。
姿を現すタイミングを遅らせて、相手の恐怖を増大させる。チャラそうな三人組の若者には効果てき面だった。しかし、最後にやって来た青年は最後まで自分の姿を認識することはなかった。
「悔しい……」
これまで水田が驚かせてきた人間は、既に百人を超えているだろうか。
戦績は百戦百勝。今まで一度も自分の姿を目にして、悲鳴を上げなかった人間は誰一人としていなかった。
しかし今回の相手――あの眼鏡の青年――は、怖がらなかったどころか、水田の姿をそもそも目にすることがなかったのである。
水田はただただ悔しかった。「このままでは幽霊の名折れだ」とすら考え始めている。
そして三日後……
水田は現在、眼鏡の青年に取り憑いている。が、一向に青年は水田の姿にも存在にも気づいてはいないようだった。
水田がラップ音を立ててもポルターガイスト現象を起こしても、青年は全く気にしない。
もっとも、これは水田の持つ霊力の大きさも関係してくる話だ。
勤めていたブラック企業の上司や先輩を恨んで自殺した水田だが、霊力はそこまで大きくない。ラップ音やポルターガイスト現象を起こせるといえども、その規模は極めて小さい。水田が出来るのはせいぜい本やコップを落とす程度だ。リビングの物が渦を巻きながら部屋中を駆け巡るというような派手な霊現象は起こせない。
コップや本が落ちた程度では、青年もあくまでバランスを崩して自然に落ちたぐらいにしか考えないのもやむを得ないだろう。
水田は大学のキャンパスで朗報を聞いた。
青年と三人組がまた肝試しに行くという。行き先はO市近くのトンネルだ。
「これでリベンジが出来る」
水田はガッツポーズをした。
肝試し当日になり、四人と水田はO市近くのトンネルにいた。
いざ肝試しとなる四人。前回同様にチャラい三人組と、眼鏡の青年ひとりに別れる。
三人組がトンネルから戻ってきて、青年の番になった。
水田が青年の背後に張り付く。
トンネルの中へ入った青年には、今回も怖がっている様子がない。
それどころか、どこかガッカリしている風に見える。
トンネルに幽霊がいるとすぐに察知した水田は、ここに住む幽霊の出方を見ようと気配を消した。
しばらくして、闇の中に赤いワンピース姿の若い女が浮かび上がった。
彼女がこのトンネルに住む幽霊である。恐らく交通事故で亡くなったのだろう。首がねじれて、体が正面を向いているのに顔は真後ろを向いていた。
女は青年の方へ両手を向けて迫って来る。青年に向けて存在を誇示しているようだった。
アパートの時の水田と同じく、青年を怖がらせようとしているのだろう。
しかし、やはり青年は女の幽霊には気づかなかった。
「はあ……」
青年が溜息を吐く。
「やっぱりいないなあ、幽霊……」
ガッカリした顔で青年はトンネルを後にする。
赤いワンピースの女が青年の背後に取り憑いた時、水田はようやく姿を見せた。
「おや、あんた同業者かい? 何で最初から出て来なかったのさ?」
女が伝法な口調で、馴れ馴れしく水田に声をかけた。
「様子見です。そちらがどう出るのかなと」
「あの子、私たち幽霊にはちっとも気づかないみたいね。これじゃ、おどかし甲斐もありゃしない」
「それなのに、取り憑いたのは何でです?」
「それはこっちの台詞だよ」
「僕はリベンジする機会をうかがっているんですよ」
「おや、私もだよ」
「どうやら、お互い気が合うみたいですね」
聞けば女の霊の方も水田同様に、後で来る一人を驚かしそのまま背後に憑いて行って、四人全員を驚かそうと考えたいたのだそうだ。
その後は前回同様、三人組が水田と女の霊を視認し叫ぶも、眼鏡の青年は我関せずといった所だった。
その後、水田と女は意気投合し共同戦線を張ることにしたが、結果は惨敗だった。
幽霊が力を合わせれば霊力も増大するはずと考えて、二人は青年の暮らす家で心霊現象を起こした。しかし、青年は霊現象を気にするそぶりも見せなければ、二人の霊の存在を感知することも一向にない。
「おかしいわね」
「おかしいって姉さん、何がですか?」
「私の霊力、どうにも弱まっているみたいなんだよ」
「それは元々いたトンネル、つまり本来の場所から離れたからでは?」
「そうも考えられるけど……」
女は姿こそ若いが事故死して霊となってから、既に二十八年が経過しているという。水田より幽霊歴は長い訳で、霊力もその分彼より上であった。
彼女が言うには本来居ついた場所から離れると、充分に霊力を発揮できないらしい。しかしそれも極端に減る訳ではないらしいのだが、この青年に取り憑いてからは、霊力が極端に減っているという。
それから青年たち四人は飽きもせずに、廃病院に廃寺、廃神社古戦場跡。近隣のあらゆる心霊スポットへ出かけた。そしていつもの繰り返しだった。
三人が先に見て回り、彼らが戻ってから眼鏡の青年が単独で心霊スポットへ入る。
青年がひとりで戻ってくると、三人組の顔に恐怖の色が浮かんでいく。
それもそのはずだ。
心霊スポットへ行く度に、青年の背後には一人ずつ霊が増えていくのだから。三人は毎回大量の霊を目撃し、恐怖で顔を白く染めるのだった。
しかし、取り憑かれたはずの青年は一向に幽霊の存在には気が付かない。
「これは一体どうしてなんだ?」
水田が青年に取り憑いた霊たちへ聞いた。
既に青年に取り憑いた幽霊は六人に増えている。幽霊が肉体を持たないから良いものの、青年が暮らすワンルームのアパートに霊と言えども六人いると、さすがに手狭に映る。
どの幽霊たちも皆、水田同様に、幽霊の存在に一向に気づかず驚きもしない青年を一泡吹かせようと取り憑いたものたちだった。
「昔、聞いたことがある」
水田の問いに返答したのは、廃病院から憑いて来た老人の幽霊だった。
「人間の中には稀に、わしら幽霊の力を無効化してしまう者がおると」
「無効化……」
「じゃあ私らの存在に気づかなかったり、この部屋に来てから霊力が落ちたりしているのは、それが理由だってのかい?」
赤いワンピースの女が老人に聞いた。
「恐らくは……」
「じゃあ、どうしようもないじゃないか」
廃病院から憑いて来た中年男の霊がわめいた。この男は胃がんで入院していたが、手術中のミスが原因で亡くなったという。残る二人の幽霊も口々にわめき始めた。
場が荒れる中、水田が冷静に呟いた。
「待てよ、この手なら……」
「何かいい案でも浮かんだのかい?」
「いくら霊の力を無効化できるとは言え、その力にも限界があるんじゃないかと思って」
「つまり?」
女が続けざまに聞く。残りの四人の幽霊たちも興味津々だ。
「僕たちの他にも更に幽霊を十人、二〇人と憑依させて、霊力を無効化させる力をキャパオーバーにしてしまおうって算段なんだけど……」
「なるほど、その手は使えるかも知れぬ……」
老人の霊が唸った。
他の霊たちも「よし、やろう!」「そうだ、そうだ!」と賛成し始めた。
しかし、青年たちはその後すっかり心霊スポット巡りをやめてしまった。
幽霊たちは彼らが赴く先々に憑いて行って、各地の霊と交渉し参加者を募る予定でいたのだ。
「どうすんのさ? あいつら、もう心霊スポットには出かけなさそうだよ」
「なら、自分たちで動くしかない」
「動くったってどうすんの?」
「ここ近隣の幽霊に片っ端から声をかけて賛同者を集めて取り憑いてもらうんだ」
「上手く集まってくれるだろうか?」
「上手くいくかはわからないけれど、必ず面白がって参加する幽霊はいると思う」
そして水田は決意を固めて、こう言った。
「言い出しっぺは僕だ。交渉担当は僕がやろう」
この幽霊を大量に憑依させ、青年の力を無効化させる計画のプロジェクトリーダーは、水田になった。
彼は人間時代、上司や先輩から雑用や手間のかかる面倒事ばかり押し付けられていたため、ほとんどデスクワークで忙殺され、取引先や営業先との交渉の席からは基本的に外されていた。たまに出席しても上司や先輩は、水田について悪意のある情報を事前に取引先へ伝えていたため、取引先の担当者からも相手にされずほぼ黙殺されていた。
そんな彼が今回はプロジェクトリーダーと交渉役である。
「霊力を無効化する青年が自分に何の関係があるのか」と、最初は幽霊たちからも断られた。しかし水田はへこたれなかった。このプロジェクトに参加する意義を幽霊たちに熱く説いて回り続けた。
「このままでは僕たち幽霊の名折れですよ」
「あなたに絶対に損はさせません」
水田の熱意に動かされ賛同者は増えていった。十人、二〇人、そして最終的に三〇人の賛同者を集めた。
水田は驚いた。
「覚悟はもちろん決めていた。でも、まさか自分ひとりの手で成し遂げられるなんて……」
交渉事を行うのは幽霊になってからが初めてだった。
だから、自分の知られざる力に正直に驚いている。
生前と違いイヤな上司も先輩もそばにはおらず、悪意のある圧力がかからなかったことも人集めが成功した一因だろう。
そして今、青年の部屋では、三〇人の幽霊がひしめき合っている。
青年はというと、ぐったりして布団で寝ている。
八月のある日の熱帯夜だった。
不意に青年がダルそうに布団から起き上がった。体も目も重たそうだ。
「流石にこの数じゃ。体に影響は出ようて……」
顎を撫でながら老人の霊が感心していた。
「やったよ! あんたのお陰だよ」
赤いワンピースの女の霊が水田に抱き着く。
「いや、まだだ」
「え?」
「こいつを全員で怖がらせないと」
青年は流し台で蛇口をひねり、コップに水を入れた。
ごくごくと喉を鳴らして水を一気に飲み干すと、布団の方へ戻ってきた。
ひた、ひた、ひた、と蛇口から水滴が落ちる音が響く。
「よし、今だ!」
水田の号令で、三〇人の霊が神経を全集中させた。青年に己の姿を見せつけて、驚かせようというのである。
霊体は青白い輪郭を帯びて、少しずつ、朧ながらもその姿を浮かび上がらせてきた。
今まではいくらやっても上手く行かなったのである。
「よし、この調子だ!」
水田は快哉を上げた。
しかし、いよいよ完全に姿が浮かび上がりそうといった所で、霊たちの力が弱まってしまった。もう一度試してみても、今度は青白い輪郭すらも浮かび上がらない。
「何でだ!」
「くそ! 失敗か……」
「もうだめか……」
絶望する幽霊たちに、水田は声をかけた。
「あと一日、様子を見よう」
翌日――青年は大学のキャンパスにいた。
三〇人の幽霊たちもその背後に憑いて行った。
青年は学生ホールのテーブルに突っ伏している。
体への影響が続いている様子を認めて、幽霊たちは「あともう少しなのに……」と歯噛みした。
青年のもとへ、金髪の青年がやって来た。一緒に心霊スポット巡りをしていたひとりだった。金髪の青年は、青年と同じテーブルの席に座った。
「やあ、今度はどこの心霊スポットへ行く?」
ムクッと起き上がった青年が、悪戯っぽい笑顔を金髪の青年に向ける。
「もう勘弁してくれ……」
金髪の青年は泣きそうな顔になった。
「わかったよ」
「良かった」
水田はマズいと思った。近隣の幽霊たちの力は既に借り切ってしまっている。このまま青年たちが遠方の心霊スポットに行かなければ、新たに幽霊の力を借りることは出来ないのだ。
「それよりもお前、何ともないのか?」
金髪の青年は真剣な面持ちで切り出した。
「何ともないって?」
「いや、さあ……」
金髪の青年は頭をかいて何か考え事をしながら、重い口をようやく開いた。
「最初アパートへ行ったろう。あの時、お前の後ろに血まみれの男の顔が見えたんだよ」
「へえ」
「それだけじゃない!」
「その後、心霊スポットへ行く度に、お前の後ろには霊の顔が浮かんでいるんだよ。それもどんどん増えていってる……」
「今も見えるのか。俺の後ろに幽霊が?」
「いや……」
「じゃあ、気のせいじゃないか」
幽霊たちは二人の青年のやり取りを、固唾を飲んで見守った。「心霊スポットに行け」「心霊スポットに行け」と、幽霊たちは全員神にも祈る気持ちだった。
「じゃあ、次はさ」
「だから、もう勘弁……」
「いや、心霊スポットはもう十分だよ。少し疲れたし、皆で温泉にでも行かない?」
「良いね、行こう」
幽霊たちはただでさえ青白い顔を、さらに白くさせて絶望した。
こうなっては取り憑く島もない。自分たちの敗北が決定的になった三十人の幽霊団体はこの時をもって解散と相なった。次から次へと、青年の背後か霊が去っていく。
「慣れないことはするものじゃないのか……」
「そんなことないよ。あんたのお陰でここまでこれたんだ。自身をお持ち!」
赤いワンピースの女の幽霊が、水田の肩を叩いて励ます。
水田と女も本来いた心霊スポットへと帰っていったのだった。
晴れやかな笑顔で――。
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