始まって数時間、あっちこっちで爆発音が聞こえるし、数個狼煙も上がっている。


「やってるなー」


「目的は戦うことじゃないですよ」


「お前に言われなくても、分かってる!」


「あーあー。メンダーの機嫌悪くなったかな?」


「うっせ、そんなことない!」


「あっそー?」


 そんな話をしながら移動していると前方にいたアリアが僕たちの方に手を向け止まるように指示をする。


「どうし……」


「黙って……ゆっくり下がって」


 アリアが普段から自信満々に色々言いながら行動するのはよく目にしているが、声を震わしながら皆を逃がす手段を取ろうとするのは初めてかもしれない。


 皆でゆっくり後退するが、僕は目の前にいる者の正体は理解できないが、強烈な存在感を感じていて姿が見えないものの、プレッシャーで足元に気がまわらなかった。


 木の枝を踏んでしまい、静かな森の中に枝が折れた音が聞こえただろう。


「馬鹿! ウォーターシールド!」


 僕たちの正面に向けて円状に水の膜が張られる。


 茂みから現れたのは2メートル程で人の形をしているが、角と蝙蝠のような翼に顔はなく両手は鋭利になっており、腹部に大きな口がある金属のような色合いの見たこともない生物だった。


防御魔法は簡単に切られてしまう。

鋼以上の強度のある防御魔法が紙切れのように切られてしまった以上逃げる以外選択肢はない。


「カイム、走れ!!」


「はっ」


僕は防げることを確信していて失敗したことに驚きすぎていて、逃げるという選択肢を忘れていた。

背後を振り返ろうとしたときには遅かった。

奴の鋭利な手が僕の顔面を……。





 狼煙は上げたがカイムがあの化け物に捕まった。

いや俺の目から見ても、リント、アリアからの目から見ても捕まったとか誤魔化しでしかない。

頭が吹き飛んだ。


先生危なかったら逃げろって冗談キツイぜ……。




 僕は真っ暗な場所にいた。


「死んじゃったんだ。遅かれ早かれ死ぬはずだったんだし、痛くなかったし、良かったのかな……。はぁもっと自由に生きるんだった。死んじゃったからもう何言っても意味ないけど」


『お主は死んではおらぬぞ』


「ハハハ、こんな場所で死んでないって? さっきみたいなこともあったんだし、夢じゃない限り死んでるって、しかもどちら様?」


『神じゃ、お主が簡単に分かりやすーく説明するとな』


「へー、その神が偉いのに一個人になんのようなの」


『お前さんの身体を元に戻し生き返らせてやろうという話だ』


「怪しい、メリットそっちにないよね?」


『前世のお前さんとの約束だ。転生したときは何もない状態から始めてみたいと。しかしそれも一度死んだ今無効となった。もう一度帰ってこい。賢者よ』


 目を開ける。空がとても美しく感じる。

懐かしい異世界『ラグナロク』の空だ。

しかし自分の血の臭いで気分は直ぐに最悪に変わった。

 俺は起き上がり、怪物≪バベルの使徒≫を見る。

バベルの使徒は人間が神の力を欲するあまりに神聖体≪シンセイタイ≫と呼ばれる神の躯を取り込んだ姿だ。

取り込み方は様々だが、新しい傷口に触れていたり、粘膜接触でも起こる。


 しかしこんなところに神聖体なんて、どこから? 森の中でバベルの使徒が発生した理由を想像するのが今はいいか。


 俺はボックスから神剣ラグナロクを引き抜く。

 その刃は俺の生命力を込めれば次元をも切り裂くことができる。

 黒い刀だが少し虹色を帯びている。


 バベルの使徒に近づき後頭部から剣を突き刺せば金色の光になり消えた。


 剣をボックスにしまう。

3人が信じられない者を見たような表情をしていると思えば、全力で振り返らず走っているので安心した。


「クリア、クロック」


血を消し千切れた服も時間を巻き戻し治した。


改めて3人を追いかける。



「待ってください。安全ですよ!」


3人とも止まる気配はない。

 そりゃそうか、化け物が俺の声を使って呼んでるって可能性もあるからな。

追いかけますか。



 カイムの声が聞こえたが死んだはずの人が話せるはずがない。

当然頭が吹き飛んだカイムが僕たちを呼べるはずがない。



「メンダー、アリア様あの速さならすぐに追いつけるのに、あの化け物僕たちで遊んでるとしか思えない」


「確かにそうですね、ワタクシの魔法を簡単に切り裂いた上にカイムに近づいた速さ、ワタクシ達死んでいてもおかしくない時間が経過していますのに、全く気配が近づいてきませんわ」


「いや、あれだけの威圧、離れてても……、消えてないか」


確かにメンダーの言う通り気配が全くしない、それどころか、また別の魔力が匂いで分かる。

僕は薬草から流れ出る微細な魔力の匂いも感じ取れる。

だから変わった匂いを感じるし、不思議と惹かれるものがある。


「もうあの化け物近くにいないのかもしれない」


「でもカイムの声聞こえたわ」


「アリア様、ありのまま先生に報告しよう」


「そうですね」



俺は3人に20秒遅れて合流する。

3人は当然のごとく驚いた表情だ。


「お前ら幻影魔法にでもかかってたんだろう、仲間を置いてく行為は減点だ」


マニガ先生は無表情でそれだけ言うと煙草を吸いだした。

表情にこそ出ないが機嫌が悪くなったのだろう。

やはり、情に熱いところがあるからだ。

いい先生と聞かれると、厳しいで有名ということくらいか。

今日の演習は行方不明者4名で終了を迎えた。


学園では捜索隊を国に依頼したりするようだ。


俺は自室で考える。


何故あそこにバベルの使徒が現れたのか。

今となってはわからないが、何かが糸を引いてるのかもしれない。

これからの行く末を考えながら眠りについた。

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ラスト・ラグナロク 梵天 @Rorietta

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