第17話「ポーション」

 さて、そんなこんなで鉛玉とヒールポーションを手に入れ、店を後にして……。

 アリスは敵に回さないと誓った上で……“クエスト”に向かうことにする。

 門の手前で止められ、「冒険者ギルドのカードはお持ちですか?」と問われる。

 カード、カード。確か貰っていたはずだが……あった。提示すれば、「ご武運を」と言われて通してもらえたが……。

 

「アリス、もしかしてこれなかったら外に出れなかったのか?」

 純粋な疑問をぶつけると、そうですね、と答えられて。

「王国の中での安全は保証されるけれども、外ではしませんよ、というのと……冒険者命知らずの面倒は見れませんっていう境界線ですね」

「ああ、 納得した」

 

 そんな会話をしながら歩けば気持ちのいい草原へと出た。

 遠く、森の近くにはスライムと思わしきものが存在しているだけの草原。

 一瞬アリスの姿が見えないと思ったら直ぐに戻ってきた。


「シロー、こちらがマナ草、ヒール草です」

 

 どうも俺のクエストのためにサンプルを取ってくれていたらしい。

 

「分かりやすいな、サンキュー」

 

 緑の花弁をしたヒール草、青い花弁をしたマナ草。

 ああ……なんか、こういう認識も共通なんだなぁ……と思いつつ、探すことにする。

 

「私は少しスライムを狩ってきます。この辺りならモンスターは出ないので、存分に採取してください」

「分かったよ。気を付けてくれよ」

 

 笑みを見せて、頷く。

 さて……採取用のずだ袋は持ってきているが、これだと品質が落ちていくだろう。

 それなら、アイテムボックスに収納していくのが合理的だ。

 マナ草はまだしも、ヒール草が見分けが付きにくい。ここは鑑定で……。

 

 生え散らかっている雑草の中に、ヒール草を見つける。

「……チート並のことしてるって自覚はしてんだけど……」

 苦笑しながら、表示されるヒール草を、見かけたマナ草をアイテムボックスに突っ込んでいく。

 これは確実でいいな……と思いながら作業をしていて。

 ふと思う。

 アリスに、ヒールポーションはどう作られているのかを聞いたとき、「ヒール草を湯がいてできた液体にすり潰したマナ草を入れて完成です」……と美味しくなさそうな作成方法を聞いたのだ。

 ふむ、と。ここは錬金術でなんとか美味いヒールポーションを作れないだろうか? と思った。


 手持ちに砂糖なりがないからMPを使うことになるけど……。ああ、あと容器がないか。そこもMP消費するが……試してみる価値はあった。


 イメージするは、青い液体のポーション。飲みやすいもの……。

 ヒール草とマナ草をその場に置いて、手を合わせる。

 甘くて、飲みやすくて、それでいてサッパリとしているもの。


 パチパチ……と音を立てて変化したものは、フラスコの中に青色一号でも薄めて使ったかと言うようなほどにキレイな水色の液体。

 俺が作ったものだから毒見も俺がするべきだ。

 緊張しながら飲んでみると……おお、ジュースみたいだ。

 これなら飲みやすいだろう。それにしても、本当にキレイな水色でヒール草の緑色が完全に消えている。

 これは最早、「ポーション」と呼んで差し支えないだろう。

 少しして、身体に異変を感じる。

 なんだろうか……エネルギーが漲っているというか。


 そういえば……マナ草を使って魔力を感じることを最初にしたほうが良いと言っていたような。

 マナ草を使用した「ポーション」なのだから、魔力を感じてもおかしくないんだ。

 ゆっくりと目を閉じて、体内の巡りを感じてみる。

 胃のあたりに燻っていたなにかも誘発されるかのように溢れて、それが全身、指先まで巡る感覚。

 今なら魔法が使えそうだ、なんて錯覚を覚える程だった。

「いや、魔法を使えそうだってなんだよ」

 自嘲気味に呟いた瞬間、ペチャン、ペチャンと音を響かせながら、感じる殺気に気付く。


 それは俺の背丈ほどある水色の物体で――スライム!? いや、でかすぎだろ!?

 すぐに拳銃に手を伸ばす。

 ここにモンスターが出ることは、なんて言葉から、鉛玉を装填していなかった。

 ヤバい、ヤバい、ヤバい。

 気が動転した俺は何を思ったか――。


 魔力の鉛玉を込めたほうが早い!


 その思考に至ったのだ。


 こんなデカいスライムに一発撃ち込んだところで変わりっこない。

 それなら……散弾銃を想像して……水分が多そうだから、炎属性で……。


 散属性、炎属性、これだ! ええい、いや、これができなくてもいい、とりあえず死んでたまるか!


 そんな瞬発的な思考の後に、引き金を引く。


 パァンッ、と軽快な音が響いて放たれたと思ったら――それは――。


 炎を纏って、スライムに当たった直後、四方八方に弾け飛んで、スライムを蒸発させた。


 呆然とする中、俺の目の前にはフラスコに入った青色の液体。


「なんだこれ……」


 俺が今起こしたことよりも、落ちたものが気になって、鑑定をする。


『スライムの体液 Lv1

 スライムからのドロップアイテムだな。これにヒールポーションを掛け合わせるとハイポーションが作れるかも』


 スライムの体液。いや、こんな序盤でハイポーション? マジで言ってる?

 とにかく手にとって、アイテムボックスに収納したら――。


「シロー! 大丈夫ですか!」


 すぐにアリスが全速力で走って寄ってきた。

 ああ、アリス、悪い、邪魔したな。


「シロー、……今魔法使いましたね?」

「はは……そうかも」


 ぐらり、と揺れる視界に、心配そうなアリスの表情が見えて。


 あれ、おかしいな――そう思った瞬間に、俺は意識を失っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る