第2話「この異世界について」

 家で過ごしてたカッコで召喚されてしまったおかげで、オシャンな町並みをスリッパでぺたぺたと歩く羽目になっている。

 なんという恥ずかしさだ、こんなことならマトモなルームシューズを履いておくべきだった。

 ……いや、そもそもそんなものは持っていなかったな。


 さて、そんなオシャンとしか言いようのないこの通り――洋風の石畳に、レンガでできた建物。

 街灯はほぼないため、太陽と共に生活しているのだろうと想像がつく。

 バイクも車もなく、みな歩いていて、日本では味わえない静かさがそこにあった。


 きょろきょろと辺りを見渡しながら歩いていると、ガイドさんが口を開いた。

 

「ここは冒険者ギルドです。この国は結界で守られていて安全ですが、外にはモンスターが居ます。そのモンスターを狩って、卸したりする場所です。……隣は商人ギルドとなっており、自作品などの販売許可を得たり、求められているアイテムを納品し稼ぐことが出来ます」 

 

 淡々と、だが分かりやすく話してくれることが分かる口調にどこか安心する。よかった、悪い人ではなさそうだ。

 荒くれ者のような人たちが多い冒険者ギルド、裏の顔を持っていそうな人たちが多い商人ギルド……。これらが俺の杞憂であったらいいのだが。

 

「こちらはこの国で一番の腕を誇る食事処です。……値は張るのでお気を付けください」 

 

 どこも、アニメや漫画で見た風景に似ているな。そう思いながら街を見渡す。異世界ってやっぱ似るのか?

 そう思いながら進み続けると、やたらと人の多い通りがあった。出店のようなものも出ている。

 

「あっちは?」

 

「市場です。今は……魔石の特売をしているようですね。少し覗いてみますか?」

 

 魔石。この世界で過ごすには情報が必要不可欠だ。だから、こういうときは。


「はい!」


 満面の笑みで、答えるべきだ。

 


 市場の方へと足を踏み込むと、大勢の人たちが笑顔で過ごしていた。寄ってらっしゃい見てらっしゃい、そんな言葉が異世界でも聞けるとは。

 

 ただ……一つ、気がかりがある。

 

 この街は栄えているというのに、どこか古ぼけてもいる。何もかもが古臭い。建物から、出店から、出品されているものから。


 言うなら、そう、一昔前のもの、みたいな。


 なにか原因があるのだろう。日本と比べてしまう癖があるのだろうか、どうしても気になる。

 

 ――原因は食べ物からか? 一度、スキルにあった“鑑定”をしてみるか。

 

 露店で売っている、リンゴと思われるものを凝視する。

 

 ブォン……なにかウィンドウのようなものが開く音。その次には――

 

『リンゴ Lv1

 元に居た世界と同じリンゴだが、品種改良もされていないため不味い』

 

 


「うわぁっ!」

 

「どうされましたか!?」


 慌てた様子で俺の顔を覗き込むガイドさん。悪い、違うんだ。ただ想定外な鑑定の出方だっただけなんだ。

 

「いえ……頭の中に声が」

 

「……きっと疲れているのでしょう、もうすぐでお家ですから」

 

 

 鑑定をすると画面……じゃないな、目の前に表示されるわけではなく、読み上げられるようだった。何故か、俺の声で。

 

 しかし、品種改良もされていないとなると、発展途上国……とも言えないのか、この世界自体が少し古いのか。すぐには分からないが、不便をしそうだとは直感で分かった。

 

 

 目の前には少し古びた一軒家が建っていた。先程まではレンガでできた建物ばかりだったが、何故かこの一軒家は木造だった。

 The 民家って感じだが、馬小屋や作物を育てるためだろうか、柵がついていた。

 

 ――“鑑定”。

 

『民家 Lv80

 昔から召喚された勇者が住んでいた家みたいだな。少々古ぼけてはいるが、防御魔法が薄っすらとかけられてるのが分かる』

 

 防御魔法か……便利だな。いや、防御魔法? 鑑定のおかげで分かったが、やはり魔法がある世界なのか。

 

「着きましたよ、旦那様」

 

 どこか楽しげに微笑んで、俺の方へと向き合う彼女は美女と言われてもおかしくなかった。

 

「ありがとうございます、……えっと、旦那様?」

 

 はて、俺は主人になった覚えがないのだが。

 

「はい、私、アリスは旦那様に仕える執事です」

 

「……執事」

 

「はい」

 

 

 執事。

 

 

「……性別は?」

 

 困惑が隠せない声色で問いかける。

 

「男ですよ」

 

「男性だったのか……」

 

「ええ」

 

 

 なるほど、美女だと思っていた執事が実は男でした……うん。そうか。

 

 

「……って、ちょっと待て、執事って、一緒に暮らすのか?」

 

「旦那様が望むなら」

 

 

 ――野郎と二人で同居!?

 

 

 

「……それはちょっと……家も小さいことだし」

 

「そうですか。では、御用のあるときはこのベルを鳴らしてください。すぐに駆けつけます」

 

 

 チリン、と鳴る呼び鈴を手渡されるも、その音はひどく小さい。

 

 

「聞こえないんじゃないか?」

 

「私のピアスと連動しております」

 

 自身の耳についているピアスを指差し、にっこりと微笑むアリス。

 

「変なとこ発展してる~……」

 

「それでは、ごゆるりとお過ごしください。」

 

 

 簡素な家の前でアリスと別れ、中へと入る。

 

 初期の家というのが分かるくらいに、最低限なものしか置いていない。

 

 窓からは明るい陽がさし、その陽を受け止めるテーブルと椅子。そこで食事を摂ればきっと様々なものが満たされるだろう。

 

 埃を被った本棚に触れると光り輝いた。何事かと思えば、埃もなにもない新品の本へと全て変わったようだった。

 

 謎の技術に呆気をとられる。きっと、“勇者”によって替わるのだろう。

 

 直感がそう告げた。

 

 ……ただ、何と書かれているかが全くわからない。はぁ、と小さくため息をついて床に目をやる。すると……。

 

 

「コンセント!! しかもWi-Fiルーターモデム付き!?」

 

 

 なんと、俺の求めていたものが、そこにあった。

 

 何故ここにだけコンセントが、電力供給は一体どこから。それにしても配置が抜群すぎる。コンセントに、ルーターやモデムが置かれている小さなローテーブルのすぐ近くに、机。

 

 

 こんなもの、パソコンやゲーム機を置いてくれと言っているようなものじゃないか!

 

 

「収納、オープン」。……ちゃんと取り出せるよな? そんな不安は不要だったらしい。


 今度はゲーム画面のような表示で、パソコン、ディスプレイ、P◯5、ス◯ッチが入っていた。それぞれタッチして、画面下部に配置されている『取り出す』ボタンを恐る恐る押すと……。

 

 近くのテーブルに優しく現れた。粒子的ななにかを発しながら。大丈夫なのか? と不安になるも、もっとドサドサっと出るもんだと思ったから有り難い。

 

 慎重に設置し、電源をつける。

 

 ピ、と軽快な音を立てて、ファンが回る。そしていつもの見慣れた――。

 

「っしゃあ!」

 

 ゲーム起動画面が表示されたのであった。

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