ゲーマー勇者の異世界スローライフ
七味と書いてななみとよむ
第1話「異世界召喚は突然に」
「このゲームもクリアかぁ、……発売日当日だってのに」
本日発売、攻略サイトすらまだ立っていないゲームのエンディングを眺めながら、頭の片隅でこう思う。
“ゲームはいいよな、なんでもハッピーエンドになってくれる”
“それに比べて俺の人生はどうだ? ブラックに入った時点でお察しだけどさ”
“この人生にも疲れてきたなぁ。なにか楽しいことがあればいいのに”
“例えば……都合よくゲーム内に入り込むとか”
……そんなことを考えた瞬間、足元が眩い光で包まれて――。
視界がホワイトアウトする。
その代わりに、ざわざわと声が響く。よくよく耳を済ませてみると……。
「成功、成功だ!」
「勇者が降臨したぞ!」
その言葉で、ワァッと広がる歓声。
……勇者? 何を言っているんだ。そう思って見渡せば、……ああ。
流行りの異世界転生ってやつですか、いや、俺のちょっとした願望をサラッと叶えないでほしい。なんて、内心ツッコまざるを得なかった。
黄金に輝く王城の一室と思われる部屋、足元には見慣れない召喚陣と思われるもの、そして……生贄になったであろう、ボロのローブを着た人たち。を、無視する貴族と思われる者たち。
そして、玉座にふんぞり返る王様と思わしき人。
間違いないっすね、異世界転生です。ありがとうございました。
我ながら適応能力が高すぎると思いながらも、ラノベやらアニメやらを見ていた影響だろうと納得する。
起きて、重たい身体を動かして会社に出社し、深夜まで残業し、帰ってきてゲームをしてほぼ毎日徹夜なんて、そう退屈な日々に飽き飽きしていたんだ。こういうのも悪くないだろう。
……ただ、社畜だった上に休みは引きこもりだったせいで体力はないぞ、いいのか?
そんな言葉を引っ込めて、言葉を紡ぐ。
「一体これはどういうことでしょうか?」
そう、まずは謙虚な姿勢を示さねばならない。俺を今囲っているのはほぼ確定で貴族。印象を悪くすれば後々に面倒なことになるだろうと踏んだ。
「ふむ……この事態に動揺もしていない様子、そなたは肝が据わっておるのお」
……しくった! そういう捉え方もあるのか。だからといって、今から動揺した素振りを見せても意味がない。
「ありがとうございます。……一国の危機、なのですか?」
異世界召喚のものは大抵、国がー、だの、戦争がー、だのと言ったものばかりだ。それらでないわけがない――。
そう思っていたにも関わらず、飛んできた言葉は。
「いいや、我が国は至って平和じゃ。勇者召喚は百年に一度、平和の象徴として行っておるのじゃ」
……は?
「異世界から召喚するためには、術を中断されないことや、条件を満たさねばならない。それが無事に行われるということは、国内が平和であるということの表しなのじゃ」
はぁ。
「こうして召喚に応じてくれたそなたには感謝しておる。街から少し外れたところに家と、金貨を準備しておる。自由気ままに過ごしてくれたらいい」
……ええ。
「それとも……戦闘なんぞを期待しておったかの?」
「いえ、あの……想定外すぎただけです。その、……私に職業などはついているのでしょうか?」
なるほど。その一言を呟けば、側近に「鑑定の鏡を」と声をかけた。
暫くして持ってこられた鏡は大きく、圧倒されそうだ。
その鏡の前に立てば、情報と思わしきものが表示される。
『トーシロー
HP50/50 MP300/300
Lv1 次のLvまで100EXP
職業 ゲーマー 錬金術師 商人
職業Lv1 次のLvまで50EXP
スキル 見切り 鑑定 錬成 収納 ショップ』
…………。
錬金術師と、商人は分かる。それを抑えてのゲーマー? こっちでもゲーマー扱いかよ。
「結果はどうかの?」
思わず身体が強張る。こんな、ゲーマーとかいう恥しかないステータスを教えるわけにはいかないだろう。
これは一番まともなものでいこう。でないと俺が恥ずか死してしまう。
「えっと……錬金術師らしいです」
「レンキンジュツシ……聞いたことがないな」
「え?」
錬金術師。それは適切な素材を組み合わせて新たにアイテムを作る職業。……のはずだが。
まさかこの国……錬金術という概念が、ない?
「うーむ、鑑定の鏡の故障かのう」
「そうかもしれませんね、あはは……」
まずい。召喚された上に、初めての職業。こんなの、実験に使われるに決まってる。だから、バグ、そう、バグなんだ。
「まぁ、どのようなスキルであろうと、この国は平和じゃ。気にしなくてよかろう」
「その通りですね、……ええと、先程、家を用意していると仰られていたと思うのですが……」
「ああ、そうじゃな。召喚の儀式も終わったことじゃ、そちらに行ってもらおうかの」
「そのことなのですが……この、俺と一緒にこの世界に来たであろう、この機器を持っていってもいいでしょうか?」
指を指した先にあるのは、一緒に転移してしまったであろう、ティスプレイと、俺が頑張って働いて購入したデスクトップパソコン、ディスクも読み取れるP◯5と、最新型ス◯ッチだ。
手放せと言われても絶対に手放さない、そんなもの。
……いや。だからってあるのはおかしいんだけど。
持っていけるなら持っていきたいのだ、何としても。
「元々お主のものなのじゃろう? もちろんじゃ」
ありがとう神様仏様! これで俺はこの世界でもゲームができる! ダウンロードしたゲームなら! もう全部クリアしてるけど!!
「有難き幸せ……!!」
そう、現実では社畜だった俺の唯一の癒やし、ゲーム。こんなに充実した異世界ライフはあるだろうか? いや、ない。
そういえば、さっきのスキルに、「収納」ってあったな。もしかして……「アイテムボックス」か?
物は試しだ。
「収納」
そう呟くと、それらは異空間に消えていった。え、取り出せないなんてことないよな?
そんな不安を抱く俺を、「あの技は召喚者だけが使えるもの……!」「技だけでもほしい……」と、欲に塗れた貴族たちが言葉にする。
……スキルは安易に人の眼の前で使わないようにしよう。そう固く誓った。
王城から出発するにあたって、ガイド役の人をつけてくれた。
碧色の瞳をしたすっとした顔立ちに、金髪を緩く括り、黒のスーツを着た美人さんだ。身長は俺よりも少し高いな。180cmあるか?
笑顔を浮かべないところもクールだな。なるほど、詮索してこないタイプなら有り難いものだが。話してみないとわからないな。
「それでは、行きましょうか」
「はい、……地図さえ頂けたら一人でも……」
「……ふむ、ではこの看板の文字は読めますか?」
そう言われて、頭上の看板を見る。
…………何だ、この文字は? アルファベットとカタカナを融合させたような……とにかく読み辛い。読めない。
「……読めないです」
「でしょう? ちなみにここは冒険者ギルドです。 文字の形と建物の位置だけでも覚えてください」
こうして、有無を言わさず、異世界のツアーが始まった。
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