Log.21_UNCONTROLLED_ROOT(制御不能なルート) - 転生者(デベロッパー)の「修正」と《世界の破壊(バグ)》

風が、奇妙なシーケンスで木々を揺らしていた。まるで、経年劣化したファンが断続的に回転しているような──不協和音。


悠斗の耳には、それが“正常系からの逸脱”を示す、耳障りなログ音にしか聞こえなかった。


「……また、だ」


彼らが踏み入れたのは、山脈地帯。マナの流れが崩れ、既存の物理法則すら揺らぎつつある異常領域。世界そのものがバグっている。


草を踏みしめる足音。その先で、断片的な会話が聞こえてくる。


「うわぁ、また魔物が湧いてきたよ! 鬱陶しいなぁ」

「仕方ないさ、アイリス様が修正するまでは、こういうもんだって」


──転生者。かつての自分と同じく、この世界に“落とされた”プレイヤーたち。だが、彼らは既に“この世界の構造”に干渉する存在へと変貌していた。


「……またノイズが増えてるな」


そんな悠斗の隣で、レナがふっと表情を緩める。


「ねぇ悠斗さん、昔さ──火を出す練習してたら、村の井戸を丸ごと蒸発させちゃって……」


「は?」


「ごめん、思い出し笑い。あのとき、村長が本気で泣いててね。『井戸はバグじゃない!』って叫びながら」


セリアが静かに笑みをこぼす。


「その後、レナ様が水桶を百個運ばされる罰を受けた話、でしたね」


「も〜、そこまで話さなくていいでしょ!」


小さな笑いと記憶。それが一瞬で、破壊される。


──視界に現れたのは、白銀のショートボブを揺らす少女。アイリス・クロード。


彼女は、周囲に広がる魔物たちを一瞥すると、ため息混じりに手を振る。まるで“余計なゴミ”でも見るように。


「……まったく。『元の住人』って、どうしてこうも湧いてくるのかしらね。まるでバグじゃない」


その瞬間、レナの表情が凍る。


(バグ……? あれが……“強者”の口から出る言葉?)


フラッシュバックする、村が焼け落ちたあの日。マナ暴走で人が傷つき、レナ自身が“危険因子”と見なされ、追放された記憶。


「その言葉……二度と口にするな!」


怒気混じりに踏み出そうとするレナの肩を、セリアが押さえた。


「お待ちを、レナ様」


その手には、騎士としての冷静さと、確かな怒りが込められていた。


───UNIT STATUS───

\[User ID: IRIS\_CLAUDE]

LEVEL: 30 / HP: 250 / MP: 500 (UNSTABLE)

SKILLS: Device\_Overlay (System\_Override\_Lv.MAX), Spatial\_Manipulation (Lv.5)

NOTE: Self-proclaimed saviour. Causality disruption detected.

BUG: Uncontrolled\_Root\_Access (ID: IRC\_01)

─────────────────


悠斗だけが見えるHUD。そのバグ表示は、赤黒いノイズとなって点滅していた。


(Uncontrolled\_Root\_Access──制御不能な管理者アクセス権。まるで……暴走したroot権限か)


「あなたたち、冒険者? なら好都合だわ」


アイリスは微笑む。


「この世界のバグ、私が“修正”してあげる。だから、あなたたちも協力しなさい。私の“最適化”は、万人に益があるのだから」


その言葉に含まれるのは、絶対の無自覚な“善意”。


だが──悠斗の脳内では、シミュレーションが動き出していた。


【予測シナリオ構築中……】

【世界構造破壊率:78.9%/暴走因子拡散指数:++++】

【ERROR:予測不能な例外エラー──クラッシュ確率:CRITICAL】


「……アイリス・クロード。その『修正』、お前が思っているほど綺麗なもんじゃない」


「何を言ってるの? 私は救世主よ。この壊れかけの世界に、秩序と効率をもたらしてるのに」


「秩序じゃない。お前がやってるのは、“上書き”だ。住民の思考も、自然の流れも、すべて“都合のいい変数”として扱ってるだけだ」


「当然でしょ?」


アイリスの笑顔は揺るがない。


「世界なんて、コードと同じ。効率の悪い関数は消して、重い処理は間引いて、新しいアルゴリズムを適用する。何がいけないの?」


その瞬間、レナが叫ぶ。


「この世界には、人がいて……感情があって……生きてるのよ! あなたはそれを、“関数”呼ばわりして!」


アイリスのHUDに、赤いノイズが走る。彼女の言動とシステムの挙動が乖離し、干渉しはじめている証だ。


───SYSTEM WARNING───

\[ANOMALY RISK INCREASING]

STATUS: Interface sync loss / SYSTEM\_GLITCH THRESHOLD NEAR

─────────────────


セリアが静かに剣に手をかける。


「朝霧殿……これはもはや、“対話”でどうにかなるものではありませんわね」


「いや、まだだ。まだ“致命的エラー”には至ってない。……でも」


悠斗はHUDに目を落とし、淡く呟く。


「この“管理者”を名乗る少女は……この世界の“構造”を、自覚なきまま破壊してる。放置すれば──再起動では済まない」


彼の視線は、アイリスの核心へと向けられていた。


(Uncontrolled\_Root\_Access──これが、この世界に仕込まれた“起爆装置”だとしたら)


──彼女を、止めなければならない。


世界の未来のために。

この世界で“生きている”人間たちのために。

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