036 脱出作戦
さっき初めて会った茶髪の彼女、白藤奈津。一目見て迫られた時、まるで元から覚えていたかのように彼女との記憶が蘇る。
いや、蘇るというのも違うか?写真のように彼女のいる景色を思い浮かべれるだけで、その時俺が何を思い、何をしていたかは思い出せなかった。まるで、俺じゃない誰かの記憶を見ているみたいだ。
「ライヤ、気分はどうだ?……っつっても良い気分はしねえだろうな。さっきは連れが悪かったな。」
「あんままにするのも今後に支障が出そうなんでな、あいつも頭が冷えたみたいなんで連れてきた。ほら、挨拶しな!」
ガープスが歩いてきた横には白藤、ひどく申し訳なさそうにペコペコと頭を下げながら出てきた。
「すみません……とんだ無礼を働いてしまいましたね。なんとお詫びすれば……。」
「そんくらい気にしなくていい。俺があんたの大切な人に似てるってだけでそこまで取り乱すんだ。むしろこれこそあんたの愛の照明だろ。」
「ところでさっき見たところエルファスの住人が見当たらなかったが、何処にいるんだ?」
適当なところで区切り話を逸らす。あまり長々とする話でもないし、俺もあまりこの話を深掘りしたくない。
なんだか気づいてはいけない深淵に手を伸ばしている感じがして……恐ろしかった。
「ああ、あいつら煩くなりそうだったからマリに頼んで眠らせといた。マリが戻り次第随時起こして脱出の準備をさせるつもりだ。」
そんな淡々と言うことかそれ?と突っ込んだらガープスがガハハと笑いまたバシバシと背中を叩く。いつか背骨折れるぞこれ!
「ただ……ガープス、彼は先行させた方が良いかもしれないわね。」
「シラフジ、そりゃ一体どういう意図だ?あんたの私情を挟むほど余裕があるわけじゃねえぞ。」
「私情というか……村全体の統率のためかしら。ほら、彼……私の夫に似ているのよ。私ですら見間違う、ありえないくらいにね。」
「私たち夫婦、8年前からエルファスに住んでいたのよ。この村が内向的なコミュニティだったから、ご近所付き合いをしっかりしていたけれど、そのせいで彼の顔はこの辺りの人たちは覚えてしまったわ。あなたがいたら戸惑い、怯えるかも……。」
…………そんなに俺とあんたの夫は似ていたんだな。死んだはずの人間がいるってのを怖がるのは異世界ならではというか、ゾンビとか幽霊とか平気でいそうな世界なんだ。彼女の言う通り先行して後続のために道を切り拓くべきかな。
「わかった。今からでも俺は地上に向かおう。騎士団長もいるし大事に至らないとは思うが、できるだけ道中の魔物は倒しておく。」
「お前さんが良いならワシもそれに異論はない。それならマリの嬢ちゃんに言っといてくれ、戻ってくる必要は無い、とな。」
ガープスが了承したので魔剣を持って岩の隙間をつたい、根城に戻り走り去る。
それは心に潜む不安、恐怖心を祓うため。余計なことを考えないようにするため。羽ばたく蝙蝠をすれ違いざまに三枚おろしにしていき、先を……。
「不用心ね。この偉大なる次期四天王候補であるメーフィ様がいるにも関わらず単独行動をするなんて。」
「……撒いても撒いても追ってくるな。しつこいってよく言われねえか。」
白い髪の毛に二本の大きなツノ。ほぼ下着見たいな面積の布だったのが一変し、裾がボロボロな黒のフリルワンピースを着た、魔王軍幹部らしき奴がまたも立ちはだかる。
「てか随分移動が早いよな。どんなギミック持ってたらそうなるんだ?」
「移動が早いのは召喚魔法を使って私を別の階層に呼び出してるだけ、人間どもには難しい魔法らしいけどこの程度なら簡単ね。あとギミックってなに……?」
根っこが真面目なのか、聞いたら多少返してくれるな。話を聞くし、ちゃんと通じてそうでグレンよりやりやすいな。
「そんなことより、私あんたに逃げさせない方法、一つ思いついたのよ。」
そう言ってメーフィは魔法陣を一度に九個くらい表して俺とメーフィの背後に散らばせる。
「オーク、ゴブリン。出番だよ!」
魔法陣は赤く光り、豚と人のハーフみたいな巨大なものと、緑の肌をした小柄のもの。ファンタジーによく出てくるような魔物っぽい奴らが出てくる。
進路は……オークの巨体が邪魔だな。下がろうとしても後ろにいるゴブリンか前にいるメーフィにしばかれるだけ。と、なると……。一匹一匹着実に仕留めていくべきだな。
「星月夜のメーフィ。魔王様に楯突く未来の芽を摘むため、今ここでお前を殺そう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます