034 レイシャと佳澄
「雷也とマリが攫われた!?私が寝ている間に何があったの!?」
「何があったか……は定かでないさね。あくまで状況証拠とここで起きてる事象からしてそう考えるのが妥当だろうってだけだけど……ほぼそれで間違いないだろうね。あ、ちょっと焦って早食いしようとしない!喉詰まらすよ!」
ちょっと落ち着く時間をくれた後、パンを食べながらレイシャさんと話す。朝ごはんはバスケットに入ったバゲット、バターを塗って食べる。
「本当は私だって今にでも助けに行きたいけど、捕まっている場所もわからないんじゃどうしようも無くてね。」
「魔物が隠れてそうなアジトを知人……というか知エルフが探してくれているんだ。それを待つしか今の私たちにやることはない。」
「……そう、ですか…………。」
あんな夢を見たばかりだからだろうか、不自然に体が強張る。あんなに自分が守るんだって強調した後でこれ、不甲斐っていうか……なんか自分のことが嫌になってくる。
「……責を感じてるけれど、飛び出してくわけではないんだね。」
「……あっ、はい!今の私にできることはわかってますし、一緒にマリがいるんならきっと……。」
バターを塗っていたナイフを握りしめる。マリが一緒にいるなら雷也は余程無事だと思えるはずなのに、この胸のざわつきはなに?まるで私が……。
「嫉妬、してるんじゃない?」
「…………え?」
「バイルから君のことはある程度聞いていてね。君が抱いている恋慕、後悔も少しは知っているのさ。君が盾を持つことにした理由もね。」
「せっかく握った盾なのに、あいつが魔法とか使うせいもあって彼の隣に立っているのは知らない魔法使い、何も思わないようにしろってのも無茶な話さ。」
レイシャさんは一度伸びをして、大きく椅子にもたれかかって脱力しながら言う。
「他の誰にも言わないと約束する、だから君の本音を聞かせておくれ。第三者に話した方がこういうのは楽になるものさ。」
ああ。なんて優しくて、なんて甘い人だろう。これが知り合ってほぼ初めての会話だというのに、彼女のことをたっぷり信用してしまっている。
それこそ、彼女になら抱えている全てを打ち明けてしまっても良いのかも、とまで思えてしまうほどに。
「あの……私…………!」
「そこまでにしておけ、盾使い。お前は今雑な救いに手を伸ばそうとしているだけに過ぎない。」
「あれ、もう根城の入口は見つかったのかい?」
打ち明けようとしたその時、紫髪で焼けた肌を持った少年に話を遮られる。雑な救い……どこか棘のある言葉と態度だなあ。
「あんたもあんただぞ、レイシャ・スプリング。それじゃ盾使いの為にならないだろうが。あんたの善意までは否定しねえが、もうちょっと丁寧に動け。」
「わかってるけどさ、こういうのって引っ張らないべきじゃん?さっさと吐いた方が楽に…………痛い痛い痛い!わかった、わかったから耳引っ張るのやめて〜!」
レイシャさんが頭についた猫耳を引っ張られて半泣きになっている。耳触れられるシチュエーションで出る声が可愛い鳴き声じゃなくて悲鳴なことあるんだ。
「……はぁ、これから協力するんだろ?必要ないかもしれないが名乗っておく。」
「俺はハーシェル、ハーシェル・ウィント。今は一人で旅をしつつ魔物を燃やしている。あと見ての通りダークエルフだ。あまり俺に会ったことを周りに公言してくれるな。」
ダークエルフ……エルフそのものと会ったことは無かったけど、ダークとかライトとかあるもんなんだなあ。
「……というか!雷也たちが連れ去られた場所、わかったんですか!?」
「ああ、見つかった。近場の洞窟から村の真下まで降りていけそうだ、村の真下には人間っぽい無数の熱源反応がある。少なくとも攻め入る理由は足りているだろう。」
熱源反応?こっちで言うサーモグラフィーみたいなやつかな。首を傾げているとハーシェルの左手が突如として燃え盛る。
「ハーシェルは炎に関係することなら大体できるよ!なんてったって炎の大精霊、サラマンドの巫女だからね!このくらいちょちょいのちょいって痛あ!」
「あんたもだろう、ウンディーネの巫女。……まあそういうことだ。あまり期待されても困るがな。」
水の大精霊、ウンディーネの巫女であるレイシャさんと、炎の大精霊、サラマンドの巫女であるハーシェル。この二人がいれば、きっと雷也を助けるに充分な戦力だ。
待っていてよ、今度は私が助けるから!
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