033 プリズンブレイク

 誰に呼ばれたでもないが、うっすらと瞼が開き自然に目が覚める。たしかマリから佳澄についての相談を受けていた時、霧が出てきて……。


「あら、とうとう目覚めてしまったのね。自分が操り人形になることも知らない、哀れな私の兵士が。」


 手足の自由が効かない……よく見ると手枷足枷がかけられていた。そもそもここは何処だ?辺りを見渡したらほぼ下着みたいな、バカみたいな格好をした女の背後に鉄格子が見える。それ以外の三方向は土の壁。なるほど、まんまと捕らえられたって感じだな。


「驚いて声も出ないようね、無理もないわ。何故なら未来の魔王軍四天王にして世代最強の悪魔、星月夜のメーフィ様が目の前にいるんだから!」


 ……よく見たら牢屋の扉、半開きになっていないか?これなら目の前でしゃがんでいるのをなんとかしつつ、足枷を外せれば逃げ出すのも不可能じゃないな。

 …………足枷、随分とボロいな。何処かに思いっきり叩きつければ壊れるくらいだ。ちょうど良くぶつける対象がいるじゃないか。頭に生えた角の鋭さ、余程脆くなければ……。


「よーく聞きなさい、今から私の目を見つめるのよ。ゆっくり私の、目を。今から優しい魔法をかけてあげって痛あ゙!」


 しゃがみ込んだ隙を見て跳躍、そのまま頭上目掛けてドロップキックを繰り出す。モロにくらったメーフィとかいう奴は頭から倒れる。

 足枷は……よし、無事壊れている。こんな柔いの使うから逃げられるんだ、これに懲りたら装備の点検は怠らないようにな。なんてすれ違いざまに告げ、走り出す。


「こ、こらぁ!今度こそ逃がさないんだからぁ!ただでさえこの前騎士団長に逃げられたばかりだっていうのにぃ……。」


 後ろからメーフィとかいう奴が追いかけてくる。ガッツがあるっていうか、エネルギッシュなタイプだな。

 努力は認めるが絶望的に足が遅い。これなら直ぐ撒けるな。牢屋のある階層の入り口と思われる場所まで誰もいない廊下を走る。

 乱雑に置かれた魔剣を、自由の効かない両手で慎重に握り魔法を唱える。イメージするのは爆炎、ちょっと天井とか壊して通れなくするくらいのものを生み出す。


「悪いな、こっちは忙しいんだ。お手伝いならどっかで付き合ってやるから見逃してくれよっ!」


 流石に魔王軍幹部と閉所でタイマン張れるほどの自信は無い。ぎゃあぎゃあ喚いてるのを無視して上の階に逃走する。

 俺たちが眠らされる直前に声が聞こえた気がする。たしか……少年のような声で、下等生物は昨日落としたとかなんとか……?


「おい、その顔!お前ライヤだよな?ワシだよワシ!覚えておるか?」


 階段を上がりきったところで知っている声を聞く。それはたった一日で深く記憶にこびりついた爺さん。


「あんた、もしかして騎士団長か!?鎧を脱いでいるのは初めて見たが……どうしてそんな服着てるんだ!?」


 その騎士団長、ガープスさんは何故か。裾が切り裂かれてボロボロになった赤いドレスと薄汚れた黒いローブを見に纏っていた。下手な女装の方が似合ってるレベルで酷い!

 また、手に持つ武器も剣ではなくその辺の壁を破壊して手に入れたであろう大きな石片。煌びやか(だった)ドレスとミスマッチが過ぎる!


「別にこれ普段着じゃねえからな!ちょっと着るものが無かったんで目覚めて目の前にいた輩の服勝手に着てるだけだ!」

「ガハハハ!洗脳がどうとか言ってたがあの程度の拘束でワシを捕らえられるわけが無かろうが!思い出すだけで笑いが出てくるくらい世間知らずの奴だったぞ。」


 ……メーフィがほぼ下着みたいな格好してたの、この騎士団長のせいじゃないか?手枷足枷を壊してもらいながら走る。


「マリの嬢ちゃんにはエルファスの住民たちの脱出ルートを確保してもらっている!先んじて暴れてから来たお陰で魔物の気配はここらにはない。このペースならすぐに彼女とも合流できるだろう!」

「今はワシの作った休憩スペースに向かっている!そこにエルファスの民草がいる、大精霊の巫女もだ。そこで何か食べたら出口に向かうぞ!」


「大精霊の巫女?それって……。」


「合流とか、させるわけないでしょお!」


 通ろうとした道が突然崩れ、下からさっき追い払ったメーフィが出てくる。右手に持っているのは茨の意匠がなされたワンド。地属性の魔法使いってとこか?


「うわ、さっき逃した奴だけかと思ったら追い剥ぎジジイもいるんだけど。でもこういうの勇者の世界の言葉で言う……一石……あの…………あれみたいな状況じゃないの?」


「一石二鳥って言うんだったな。勇者から少し前に教わったぞ!」


 何か返そうとしたメーフィに不意打ちするように、ガープスが武器にしていた石片を投げ飛ばす。見事彼女のデコにクリーンヒット、頭を抑えてその場にうずくまる。


「よし!行くぞライヤ!」


 ……騎士団長に下手に敵対すると平気で不意打ちしてくる。心に刻みつけておくとしよう。未来の四天王だと自称する彼女を、不運な者を見る目で見つめながら先に走り去った。

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