028 野営地

「……着きましたね。ここが目的の野営地、私たちの寝る場所になります。」


 マリに案内された先にあったそこに小さな小屋なんて物は無く、あるのは焚き火跡と切り株がいくつか。それだけだった。

 道中は大した難も無く、それこそホークくらいしか魔物と出会わなかったくらいで、スムーズにここまで来れたが……こんな地べたで寝たらむしろ疲れそうだ。


「目には見えませんが……ここは魔物避けの結界が貼ってあります。ここでなら夜間に突如襲撃される心配は……多少減るでしょう。」


「とは言うけど…………こんな何も無いとこで寝るの私たち!?布団とかは無いにしても……テントとか……。」


「魔物避けの結界はあくまで魔物側からのみ匂いを寄り付きにくい物に変えるもの。昔はテントを建てていたのですが、魔物避けの結界があるとはいえテントそのものが視認されると意味も無くなるので…………わざわざ建てることは減りましたね。」

「寝袋を用意してありますので今夜はそれで寝てくだされば……。」


 寝袋か……。試したことはないが、それがあるならまあ、寝れるな。

 …………寝袋があるのか?そんな詳しいわけじゃないが、あれってこっちでは比較的新しい物じゃなかったか?


「数年前に勇者様が作らせた物で、二人も見覚えがあるんじゃないでしょうか?」


「むしろ見覚えがあるからこそびっくりしてるというか……驚いたよ。」


「え、これそんな凄いやつなの?」


 佳澄はピンと来ていないようで、寝袋を持ってポカンとしているようだった。

 それにしても、勇者が作らせた……か。俺や佳澄以外にも異世界人……自分たちと同じように転生した人がいるってのは知識として知っていたが、こうやって彼らの知識が残されているのを見ると……不思議だな。


 エルファスは勇者が戦っているという前線と方角的には重なっている。名前も知らない彼に、少しでも近づいてはいるらしい。

 俺は…………一つだけ、勇者に聞きたいことがある。これは佳澄に話すべきことではないし、恐らく特例中の特例だし、何より軽く人に話せるような話題じゃ無い。最初にこれを話すのは勇者その人であるべきじゃないかと思う。


「ところで晩ご飯はどうする?いかにもここで焚き火してくださいってスペースと、小さな鍋とかはあるけど、食材持ってきてないよね?」


 マリはハッとした顔をし、冷や汗を流しながらプルプルと震えていた。……食べられる野草、昔読んだ気がするけど、流石に覚えてねえな……。


 ♦︎


 慣れない環境だったからかな。それとも、晩ご飯が足りなかったからかな。どちらにせよ、まだ空は暗いというのに目が覚めてしまった。

 雷也は寝てるみたいだけど、焚き火の側でマリが起きて、辺りを見渡していた。

 

「……まだ起きてるの?睡眠不足はお肌の敵だよ?」


「カスミ様……目が覚めてしまいましたか?まだ夜は長いです。私のことはお気になさらず、もう一度寝袋に入って、休息をとってください。」


「とは言うけど……うつらうつらとしてる彼女一人に見張りは任せられないかな。」

 

 そう言ってマリの隣の切り株に、大きく伸びをしてから座る。頑張り屋さんなとこ、私好みではあるんだけど、たまに無理してる時の私に重なるのは複雑だなあ。


 …………これで好きな人が同じじゃなかったら、もっと簡単に友達になれたんだけどなあ。


「見張り……手伝ってくれるんですか?ありがとうございます。暇つぶしがてら、私のお話に付き合っていただけますか?」


「お話?いいよ、聞く聞く!まだマリのことあんまり知らないから、もっと聞かせてよ。」


「はい、では…………メフィ様と話して見つけた自分の一面なんですけど……。」

「私、好きな人、と呼べる存在が……できたのかもしれません。」

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