023 祝勝
023 祝勝
王都から外へ外へ逃げ出していくホークの群れと、我関さずとばかりに堂々と歩くグレン。王国を攻め落とす切り札がものの数秒で討ち取られたのなれば、士気は大いに下がり、戦線は破壊された。碌に歩兵もいなかった魔王軍に、最早打つ手は無し。
ものの見事なまでの完敗であった。ドラゴンを四等分できる戦力があるなど、彼らは想定すらしていなかった。
嗚呼、逃げる彼らは不幸だった。対角から古びたマントで羽織り、自己を包み隠した男あり。
彼に敵うものは此処にいないというのに、怪鳥は彼に襲いかかる。魔物の大群など気にも止めず、ただ襲いかかるものを斬り、そうでない者も近くにいるのなら燃やし、凍らし、あらゆる手段で倒す。
男はものも言わずグレンに近づく。グレンはその男を待ち構え……。
「ドラゴンならルーキーが切り落とした。もう脅威はねえぜ。」
「そうか。これならあっちで待っていても良かったかな。」
言葉を交わして、通り過ぎた。それは魔物が彼に対する最善手であり、生き残る唯一の手段。いくら魔王軍幹部、それどころか四天王までもが彼との正面衝突を避ける。
「騎士団長と……レイシャのことだけ伝えれば良いか。話に聞いた異世界人、見込みのある子たちだと良いな。……バイルが認めたんだし、問題ないかな。」
男は、呑気な顔をして魔物の集団をすり抜けていく。戦の後を訪ねるため、のらりくらりと草原を越えて、すり抜けていく。
♦︎
「いや〜よくやったな誰か知らねえ奴!」
「お前がドラゴンをぶった斬ったんだってな!よく分かんねえけどすげえな!」
知らない兵士たちに囲まれたバシバシと肩を叩かれる。実感は湧かないが、街全体で魔王軍と戦っていたみたいで、酒場が宴会場になっている。
次々と運ばれるドラゴンステーキ、スパイスをふんだんに使った激辛ソースが分厚い肉を引き立て、食欲を唆らせるのだが、そろそろ腹が限界になってきたな。
なんだか周りの兵士にドラゴンを殺した英雄に仕立て上げられていて、何だかものっ凄く居心地が悪い。
ドラゴンを殺したっていうのは事実なんだが、マリと佳澄の活躍あってこそで俺のおかげとは言いがたい。というか肉が重すぎて胃もたれしたし、ちょっと外の風を浴びて来たいな……。
「ちょっと失礼?そこの人もらっていくね〜。」
「佳澄?何やってるんだってうおっ!」
兵士の横に割り込んできた佳澄に手首をがっしりと引っ張られ、そのままズルズルと入り口のほうまで連れてかれる。強引だがありがたいな。
「ああいうの慣れてないでしょ!もう適当にスパッときってどっか行っちゃえば良いんだから!」
「どっか行っちゃえばいいって……ありがたいけど、どうするつもりだ?こんな戦勝ムードじゃゆっくりなんてできないし、俺を見つけ次第……。」
多分飲み食いさせてくるだろうな、とため息をつき言おうとしたところで佳澄は人差し指を口に当て、悪戯に呟く。
「家に帰りたい所だけど、生憎マリが鍵持っちゃったままお姫様とお話に行っちゃったんだよね。」
「だからさ、こんな賑やかな所抜け出して、夜の街に繰り出しちゃわない?いつもと違う王国の顔、見れるかもしれないでしょ?」
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