第11話 真っすぐな気持ち

「そうは言ってもなぁ・・・」


思わずため息がこぼれてしまう。

結局航平こうへいが来た翌日もかいが帰ってきたのは22時を過ぎていた。


「どうしたものか」

空を見上げると曇り空だ。

晴れない日が続いて洗濯物もたまるし、気持ちもスッキリしない。

時計を見ると、保育園のお迎えにまだ時間がある。

近所の公園に自転車を止めると、ベンチに座った。

ぼんやりしていると、少年と犬が楽しそうに遊んでいる。

微笑ましい光景だと思っていると、ワンワンと犬がこっちに向かって吠えている。

驚いて様子を見てみると、どうやら私ではなく後ろに向かって吠えている。

何事かと振り返ってみると、黒服が高級車の扉を開けている。

「まさか・・・」

なぎささん」

青波あおばが車から優雅に降りて微笑んだ。


「いやいやいやいや!ここ家の近くだから!」

慌てて思わず、大きな声を出してしまう。

とりあえず高級車と黒服に帰ってもらって、青波をベンチに座らせた。

「もう、あんな目立つことをして私たちが知り合いだってバレたらどうするんですか」

思わずきついい方になって、傷つけたかと顔色うかがったが、「そうですか?今日は高校の制服だから大丈夫だと思ったんですが」と全く気にしている様子もなく不思議そうな顔で青波はこちらを見ている。

この後高級車と黒服も近所では禁止にした。


「それでどうしたの?」

「コホン」と咳ばらいをして、こちらに向き直った。

「渚さんの表情が暗いように見えましたので」

「あぁ・・・」

高校でもなんだか色々考えてしまって、授業にも集中できなかった。

相当ぼーっとしていたし、かなりため息をついた自覚が自分にもある。

「何かあったのであれば教えていただけないでしょうか?力になれるかもしれません」

青波の大きく綺麗な瞳がこちらを見つめている。

こんな澄んだ瞳を無視なんて出来るはずがない。

「いや、別に大したことじゃないし」と一瞬抵抗したが、「大したことじゃなくてもいいです。僕が知りたいんです」とさらに真剣な瞳を向けられて、渚はこれまでの海の行動について話した。

その間も真剣にうんうん頷きながら青波は聞いていた。

「それは心配ですね。そんな遅くまで外にいたら何があるかわかりませんし」

「そうなんだよね・・・でも反抗期なのか全然話してくれないし」

「僕の方で調べてみましょう」

「そこまでいいよ。きっと今だけだと思うし」

「いえ!犯罪とかに巻き込まれていたらどうするんですか!」

「そんな犯罪なんて」

「絶対ないとは言えないはずです。僕が調べます」

「そこまでしてもらうなんて悪いし」

「僕の婚約者の弟ですから、僕の問題でもあります」

大きな会社を継ぐ予定の御曹司の青波の義弟が犯罪に巻き込まれたらまずいのかもしれない。

指輪のついていない左手薬指を視線をやった。

「そうだよね・・・ごめんなさい」

青波は左手をそっと手に取った。

「なんで渚さんが謝るんですか?好きな人が困っていたら助けるのは当然ですし、渚さんの弟は僕の弟ですから守るのは当然じゃないですか」

優しい笑顔ででこちらを見ている。

「・・・ありがとう」

「僕に任せてください」

そういうと、早速調べますと足早に公園を出ていく。

「ねぇ!」

私は少し離れたところにいる青波に声をかけた。

青波が振り返ると、「どうかしましたか?」と首をかしげている。

「ずっと気になってることがあって」

「気になってること?」

「なんでうちの高校に転校してきたの?有名な私立高校に通ってたんでしょう?それがどうしてうちの高校にきたのか理由が気になってて」

青波は少しうつむいたかて考え込んだかと思うと、こっちをみた。

「好きな人のそばにいたいと思うのは普通の感情だと思います!」

そう言ってバッと頭を下げると、恥ずかしそうに顔をふせたまま走って公園を出ていった。


青波を見送って自分の頬を触ると、少し熱くなっていた。


青波は調べると言ったが、3日経っても連絡はなく、その間も海の帰りは遅いままだった。

「お疲れ様です」

外にでると雨が降っている。

モヤモヤした気持ちを抱えたまま、アルバイトを終えて駅に向かって歩いていると、海に似た後ろ姿が見えた。

「海?」

傘のせいで顔はハッキリとわからない。

もし海だったらこれはチャンスかもしれないと思い、バレないようにそっと近くまで行くと、海が建物に入っていくのが見えた。

建物に近づいて看板を見てみる。

「後藤・・・塾?」

看板を見ていると、高校受験を専門に扱っている塾のようだ。

塾に通うお金なんて渡してはいない。

一体、どうやってお金を稼いでいるのか?

それともこっそり潜って授業を受けている?それって犯罪じゃ・・・・

いろんな嫌な想像が頭の中で膨らんでいく。

ここで考えていても何も答えはでない。

こうなったら塾の人に聞くしかないだろうと一歩踏み出そうとした時、たくさんの中学生や小学生が出てきた。

「先生、さよーならー」

見たことある人影が「先生」と呼ばれている。


久遠くおんくん?!」


思わず上げた声が聞こえたようで、青波がこちらを振り返って気まずそうな顔でこちらを見て手を振った。

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