第二章:開かれた箱
その瞬間は、音もなく始まった。
静寂の中、
祭壇に置かれた黒曜石の箱が、
人々の願い願いに応じるように――ひとりでに、ゆっくりと開いた。
「……!」
世界中が、息を呑んだ。
誰もが、画面越しにその“なにか”を見ようと身を乗り出した。
そこから、光が溢れた。
やさしく、
温かく、
懐かしいような、
母の胎内の記憶を思わせる、命の揺らぎのような光。
そして、その光の中から――
小さな羽音が聞こえた。
妖精のような何かが、ひとつ、またひとつと空へ舞い上がる。
人間の手のひらほどの透明な存在。
触れられそうで、触れられない。
香りのようで、色彩のような……
この世のものではない、美の結晶たち。
それは言葉を持たず、ただ微笑んでいた。
それらは音にならない音楽をまとい、
空を埋め、街を満たし、世界中へと飛び立っていった。
子どもは手を伸ばした。
兵士は銃を下ろした。
老人は涙を流し、
赤子は静かに微笑んだ。
「救いだ」
誰かが、そう呟いた。
次の瞬間、世界中で人々が祈るように天を仰いだ。
信じていたのだ。
「これこそが、希望(エルピス)だ」と。
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