第7話

 国中はカイン様が大国の王太子を斬ったという事件で、大騒ぎになっていた。

 私はディヒバルト様の傷を治す事に専念した。

 しばらくは、この宿でご一緒するつもりだ。


「私の力がお役に立てて良かったです」

「本当にありがとう。感謝するシルフ」

「ん……」


 すかさず口づけをされるディヒバルト様には、甘い気持ちが抑えきれなくなる。

 つい背中から抱きしめると、その温もりに身体が熱くなってしまう。

 そこに扉を開ける音がして、私はそっとディヒバルト様から離れた。

 侍女のミマが頭を垂れて、小声で話した。


「レイン様がいらっしゃいました」

「まあ!」


 ――カイン様のお兄様。


 レイン様は急に訪ねられた事に謝罪されつつも、意外な事実を伝えられた。


「リーゼッタと婚約したんだ」

「そんなまさか」

「私はリーゼッタの事をよく知らない。ただ、カインを心配する彼女を見て、惹かれた。しかし」


 と、言いよどむ。

 レイン様の後ろに、背丈の小さな女性が佇んでいた。

 彼女は、私とディヒバルト様にご挨拶すると、リーゼッタの侍女であると告げた。

 私はディヒバルト様と顔を見合わせた。


 その後、皆でをして、楽しい一時を過ごした。

 レイン様とリーゼッタの侍女であるといっていたアリアが去ったあと、私は今後の国を憂いた。


 ――レイン様が王太子として認められたのは当然よね。


 カイン様は行方不明だし、なんだかディヒバルト様のお顔をまともに見れない。


 ディヒバルト様がカイン様の剣を、レイン様に預けられたのは良かった。


「シルフ、レイン王太子の婚約パーティーには、揃って顔を出そう。陛下にもご挨拶せねば」

「はい」

「シルフ、何か作ってくれないか」

「分かりました」


 こうして甘えて下さるのは嬉しい。

 私ははりきった。



 ※ 


「レイン様!」 


 私は、レイン様が侍女のアリアを連れて、町に出られた事実を知って慌てた。

 アリアが私を怯えた目つきでみつめる。


 ――だから、そんな目をするんじゃないわよ!


 私はアリアに駆け寄り、


「きちんとレイン様のお供をできた? 偉いわねアリア」

「え? あ、は、はい」

「アリアは良く話をしてくれる。ありがたいよ」

「……どんな話をされたのですか」

「あ……」


 アリアがさらに怯えた顔をするので、密かに足を踏んでやる。アリアは唇を噛み締めて俯く。


「リーゼッタがどんなに優しくしてくれるか、いろいろ話を」

「まあ! そうだったんですね!」

「今後とも、アリアとリーゼッタと三人で話をしよう」  

「はい」


 ――なんだ、役に立つ気はあるんじゃない。


 私はアリアを連れて屋敷に戻ると、釘を刺す。


「あんたレイン様に妙な事を吹きこんでないでしょうね」

「は、はい。リーゼッタ様は家事もできて、ご友人からも優しい方だと言われて、好かれているとお話しました」

「ふうん。まあ、それくらいは気を回すべきよね。あんた私とは同い年のくせして、精神的な問題でなかなか仕事ができないとか甘ったれたクズなんだから。ほら、さっさと私の好物買ってきなさいよ!」

「い、今からですか!? あ、あのお店遠いですし、あらかじめおっしゃっていただけたら、心の準備ができたのですが」

「はあ? 買い物一つできないわけ? 侍女失格じゃない!」

「病気はだんだん良くなっております。そ、それに、承知の上で旦那様に雇っていただいて……」

「はあ!? お父様はあんたの見た目が気に入って、私の侍女にすれば、良い引き立て役になると思ったからよ!! 私よりほどよく劣るでしょあんた!」

「きゃ!」


 私はコイツの甘ったれた性根にイライラして、腹を蹴飛ばしてやった。

 アリアは無様に転んで、暗い顔をしてゆっくりと起き上がる。

 いい気味だわ。


「買い物できなかったら、帰って来るんじゃねえぞ」

「……は、はい」


 私はすっきりした気持ちで、部屋から出た。


「リーゼッタ」

「!」


 この声に、私は硬直する。

 振り返ると、レイン様が立っていた。

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お前は卑怯者だと婚約破棄されたので、大国の王太子様と結婚いたします。 彩月野生 @aoraika

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