【異星人外交官】虚人

ロックホッパー

 

【異星人外交官】虚人

                         -修.


 突然、管制塔の警告アラームが鳴った。

 「所長、何かが現れました。」

 「何かって、どういうことだ・・・・」

 しかし、所長は宇宙港の発着床の映像を見て言葉を失った。そこには大きな真っ黒の丸が映っていた。


 銀河連邦のエージェントとして最初の異星人が地球に来訪して以来、毎年のように次々と新たな異星人が表敬訪問するようになった。このため、地球政府は宇宙港に異星人専門の外交機関を設置した。

 最初の異星人は地球の言語を研究し、公用語で通信してきた。しかし、それに続いて来訪する異星人達はお構いなしに自分たちの言語とコミュニケーション手段で話かけてきた。その手段は音声以外にも、電磁波、重力波、接触型など多様を極めた。

 このため、この外交機関は、異星人を出迎えるよりも、むしろコミュニケーション手段と言語の解析が主なミッションとなっていた。


 「あれはなんだ・・・」

 「所長、観測AIが映像の変化を検知して警告アラームを出したようです。正面の映像を見る限り巨大な黒い丸としか言いようがないですね。」

 「大きさはどのくらいだ。」

 「はい。直径100m程度ですが、側面のモニターの映像ではラグビーボールのような形で、長さが200mくらいです。どこから見ても真っ黒ですけど。」

 「異星人の宇宙船だろうか。しかし、どこからか飛んできたということではなさそうだな。」

 「そうですね。記録映像でも突然現れています。また、異次元からやってきたとか、いや、もしかしたら時間旅行してきた初の異星人かもしれないですよ・・・」

 「まさか時間旅行はないだろうが、もし宇宙船とすれば真っ黒なのは超低反射塗料でも塗っているのか。」

 外交官たちは、想像を超える技術水準の異星人たちとファーストコンタクトを行ってきて、あらゆる可能性を検討する癖がついていた。


 「そうですね。所長、他のセンサーからの情報でもそのようです。光だけでなく、音波や電磁波もすべて吸収しています。まるでブラックホールですね。」

 「そうだな。念のため、黒い丸の周辺の画像を拡大してみてくれ。ブラックホールなら周辺の画像が歪むことも考えられるからな。」

 部下がコンソールを操作し、正面の黒い丸の周辺部の画像を拡大した。そこには黒い丸で切り取られた遠くの山々が映っていた。

 「所長、特に歪みはないようですね。」

 「そうか、まあブラックホールなら発着床が無事なはずはないからな。そうだ、発着床の重量計の数字はどうなっている。」

 発着床は頑丈に作られているとはいえ、宇宙船の重さにより若干たわみが生じる。このたわみをセンサーで計測することで宇宙船の重さが判るようになっていた。

 「重量0ですね。黒いラグビーボールは宙に浮いているんでしょうかね。」

 「うむ、全く掴みどころがないな。我々の前に、本当に何かが居るんだろうか。もしかしたら、不可視の黒い空間が見えているだけなんじゃないのか。」

 「確かにそうですね。何かが居る、という確証が全くないですね。実体があるんでしょうか。もし異星人だとしても、どんなコミュニケーションが取れるんでしょうね・・・」


 外交官たちが頭を抱えていると、映像に変化が起こった。

 「所長、側面のモニターを見てください。小さな黒いのが分離しましたよ。」

 そこには、高さ5mほどの細長い黒い影がラグビーボールから分離してきていた。

 「一般的な異星人なら、宇宙船から異星人のエージェントロボットが出てくるパターンだが、あの黒い影が異星人のエージェントロボットなのだろうか。」


 異星人のコミュニケーション手段は、あるときは強力なレーザービームであったり、爆音であったり、異常な重力波であったりと、生身の人間が受けると一撃で死に至るものがあった。このため、異星人の出迎えは、人間と同じ姿で、色々な種類のセンサーを持ったエージェントロボットに行わせていた。異星人側もそもそも地球上では生存できないケースもあるが、同じ理由で、自分たちの姿に似せて、自分たちと同じようにコミュニケーションができるエージェントロボットを用いていた。


 「所長、あの黒い影もラグビーボールと一緒ですね。何もかも吸収しています。」

 「そうか。あの黒い影も何かは分からないが、このまま手をこまねいているわけにはいかないな。こちらもエージェントロボットを出してみよう。」

 「はい、所長。」

 部下がコンソールを操作し、黒い影の進行方向の10mほど先に、発着床からエージェントロボットをせり出させた。

 「さて、どうなることやら。」

 黒い影は、エージェントロボットが出現してもスピードを変えることなく進み続けた。

 「所長、まさか、異星人が反物資ということはないですよね。もし反物質だと大爆発を起こすことになりませんか。」

 「可能性は0ではないな。しかし、もしあれが異星人だとすれば、我々より数千年、いや数万年先の文明をもっているはずだから、そんな危険を冒して表敬訪問に来ることはないだろう。」

 「それもそうですね。」


 外交官たちが話しているうちに、黒い影はエージェントロボットに到達し、さらに重なってエージェントロボットが見えなくなったところで停止した。

 「完全に重なったな。センサーの出力はどうなっている。ロボットは生きているのか。」

 「所長、センサー、すべて沈黙しました。応答ありません。ロボットの生死も不明です。」

 「うーん、ますます分からないな。何が起こっているんだろうか。」


 黒い影が静止したまま数時間が経過した後、黒い影が後退を始め、エージェントロボットの姿が現れた。

 「所長、ようやく動きましたね。早速、ロボットの信号が復活しました。死んではいなかったようです。」

 「黒い影は引き返しつつあるが、何がしたかったんだろうか。」

 「所長、ロボットからメッセージを受信しました。」

 「なんだと。」


 それは異星人からの公用語の表敬文だった。彼らは、地球とは別の次元に存在しており、地球上では実体がないそうだった。したがって、物理的なコミュニケーションが取れず、仕方なくエージェントロボットを一旦彼らの世界に取り込み、銀河連邦から教えてもらった公用語のメッセージを組み込んで、こちらの世界に送り返したそうだった。


 異星人の技術により地球側の次元に表示させていた黒い影と黒いラグビーボールは再び合体し、突然消えた。彼らは実体がない異星人という意味で、後に虚人と呼ばれることになった。


おしまい

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