第2話

王子は彼女を失うくらいなら、たった一人を愛するのがダメなら、いっそすべて愛そうと。

そうすれば、彼女を愛し続ける事ができると。


たった1人を求めて居た筈だったが、愛した娘に攻撃が向かない様に、軋轢を生ませない為にと、全ての妻を平等に扱った。


初めは不満があったようだが、自分を理解しようとし、愛してくれた妻たちには、毎日愛をささやき口説き褒めたたえた。


王子の妻たちはとても優秀だった。実家の威厳を仄めかしたり、金でどうにかしようとした場合には王子は妻を遠ざけた。 


王子を愛した妻達は、心から王子を愛した。いつまでも王子に愛されたくて、王子の望みを叶えるために、妻の立場の上下関係を無くし同じ王子を愛する妻として、王子の協力者として仲よくしていった。


妻達との生活に、政治的な付き合い等は帰って邪魔になる。と感じていた頃、自分の娘を袖にされた貴族の親たちはやはり黙ってはおらず、暗殺計画などを画策する者もいた。


しかし何故か計画した瞬間バレて破綻した。


何度となく仕掛けようとするも、考えただけで足元を掬われたり、全く別の悪事が曝け出されて失脚したりした。


余りにも守られている様子に周りは、

王子には「神の力」があり、女神に愛されていると噂さした。


実際、神の声を聞く巫女が

「この国は女神が守護しています。女神は争いを決して望まない、ナトゥーアを守護する美の女神の授ける力は、水や空気、作物に至るまでその力が溶け込んでいるのです。善行を積み、祈りを捧げ続けると、女神の恩恵によってその者は自分が望む容姿となり、慈愛に満ちて心が美しい程その容姿は美しくなる事でしょう」

と神託を下した。


それによって、元々女神から恩恵を受けて美しくなっていた貴族達は、更に善行を積み、王子に協力的になり、見た目だけで無く心も美しくなると、更に美しさに磨きがかかった。


王子のやり方に不満があり、不満ばかり溢していた貴族達にも王子は寛容で、合わないのは仕方が無いと王子が他国に掛け合い、相応の立場を持って国を移動させた。


次世代を担う王子が沢山産まれた。


王女も沢山産まれた。王女はハーレムの妻達から色々な事を教わり、他国に嫁いで行って国同志の繋がりを築いたり、王とハーレムを支持する人材と婚姻して国を支えた。


王子が沢山居たのでハーレムは更に大きくなった。その頃には王子と結婚したければハーレムに入るのが良いと噂が流れ、王子達は常に求婚をされていた。


皆ハーレムに入りたがった。


美しい王子の愛を望んだ。女性達は芸を磨き、こぞって王子達の気を引いた。王子達はそれぞれお気に入りを沢山見つけた。


芸術に秀でていた王子達の妻は

皆芸術に秀でていた。 

気付けば芸術の国と言われる程になっていた。


ハーレムの女性が美しく優秀になると男性達が放っておかなくなり、あちこちで色恋のトラブルが多発した。


王子達の妻が不貞を働くなんて!


と憤りを見せたのは王子達では無く、妻の親たちだった。王子は自分の妻達に与える愛が足りなかったのだ。と反省していたのだ。


王子達は、王に不貞をした妻と相手に対して罰を与えなくて良い。と願った。


王子達は女神の寵愛を受け、常に人を喜ばす事や思いやる事を考えて生きて来たので、自分だけが沢山の妻を持ち、相手に自分だけを愛せとは言えないと考えていた。


王子達はいずれ王と、それを支える臣下となっていく。王はなりたい者が交代でなった。


何代かすると、王族以外は美女に使える従僕になった。その歴史が繋がった結果、


全ての女性がハーレムに入る、

自由恋愛の国が出来上がった。


「ケーニッヒ様お待ちしておりました」


ハーレムの談話室に入ると、新しい住人が頭を下げて並んでいた。皆まだ慣れていないので緊張している。


「畏まらないでいい顔を見せてくれるかい?」


頭を上げた住人達は、ケーニッヒを見ると皆驚き、そして顔を赤らめる。


「ハーレムでは、好きな事を学び、善行を積んで自分を磨き心身共に美しく咲き誇り幸せになりなさい。それぞれに担当の従僕が付くのでそれぞれの希望を伝えるように。詳しくは担当に聞くんだよ」


今回ハーレムに来たのは、最北にあるエードランド国で、生きるのもやっとな貧しい生活を余儀なくされていた者達だ。


スカウトの者達が人間性、性格、能力等を見極め心根が良い者達をお金で買ってきた。


貴族が機能しなくなったナトゥーアでは、ハーレムの補充を諸外国に住む、才能ありながらその花を咲かす事が出来ない者や、親に捨てられた身寄りの無い子供、放置されていた子供、虐待されている子供を中心に集めている。


国から見捨てられ、いらぬ物としか扱われなかった者達を集め、教育し、才能を伸ばす。愛と美の神の恩恵を受ける以上、争わず、羨まず、妬まず。決して心貧しい者にはならない様、考え方から全て一から教育する。


綺麗な服を着て、暖かい布団で眠り、皆と褒め合い、ハグしてキスをする。美味しい食事を食べ、得意事にふける。


身体の中から毛の先一本まで全てナトゥーアの愛で作り変える。


先に才ある原石達を買い取る事で、後から自国民だの、家族だの言えない為にも、先行投資としてしっかり金は払う。


中には女神に対する恩を忘れて、国外へ逃げる様に姿を消した者も居たが、その場合、女神の寵愛も無くなるからか、見た目だけ出なく、芸術の才も元の原石の頃に戻る。


女神の寵愛への恩義を忘れず、国に筋を通し、円満に国外へ出た者は引き続き女神の寵愛は続くのか容姿、才能共に高いままである


「さあ、今日は長旅で疲れただろう?ハーレムの皆で歓迎の宴を開催するから、それまでに部屋に移動しなさい。やりたい事は後から変わっても大丈夫だ。先ずは気になる事から習いなさい。控えの者達、いつもありがとう。お世話をよろしく頼むよ?」


ナトゥーアで素敵な宝石になりなさい


私は宴の準備を待つ為に自室に戻った


今回、スカウトしに行ったエードラント国は、全体的に枯れた土地だ。以前は軍事産業が盛んな所だったが、欲に掻いて魔族の土地を所望した。


自分達の力を見誤って、あろう事か魔族に手を出し、返り討ちにあったのだ。


自業自得だった。


自ら仕掛け、国を荒らすだけ荒らし、力量差に気付き魔王に同情され放置された国の末路


戦が終わった今も傷は深く、人口は減り貧富の差は広がった。街と言っても至る所が破壊されたまま放置されている。


貴族達は自らの財は守っていたのかそれとも民に守らせたのか、貴族区域だけは復興した。その際に取引した一部の富豪達だけはまともな暮らしをしている。


戦争に駆り出され先陣を切ったのは、平民から駆り出された即席の兵士だ。足りなくなると、少年や女性も駆り出された貴族達は後ろで偉そうにしているだけで、平民兵が居なくなると退避した。


エードラントは今、一部の富豪と役に立たない貴族だけで成り立っている。立ち行かなくなるのも時間の問題だ。


戦争孤児も沢山居たが、皆貧困で小さな者から死んで行った。


争いはいつも、弱い者達が犠牲になる。


魔王に焦土にされなかっただけマシだろう。その様な土地だからこそ、優先的に望みある原石を探す。勿論全て救えるならそうしてやりたい気持ちもあるにはあるが、誰彼構わずだと、自国の民達が苦労をする事になる。それでは本末転倒だ。


自国を守るのが優先だ。


過酷な生活をしながら、盗みや犯罪に晒され、病に苦しみ、他に罵倒されてきたが、心が美しい者、希望を捨てず努力している者も居る。他者のために自らを犠牲にする者だっている。報われたっていいじゃ無いか。


だから選ぶ。スカウト達は皆優秀だ

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