第1話起点(きてん)

俺は鴻舟(こうしゅう)の正門の前に立ち、学校のようなその場所を見つめた。

「うん、まあ普通の場所って感じだな」


門の脇の木には花が咲き乱れ、春の日差しを浴びてそれは美しく、花びらがゆっくりと風に舞い散っていた。地面にはすでに柔らかな花びらが一面に広がっている。

「結構人が多いな」

周りはみんな俺と同世代の者たちばかりだ。

「鴻舟に入ったら、女の子にモテてやるぜ」

「鴻舟に図書館はあるんだろうか」

「なんて美しいんだ、鴻舟は」

なんて活気があるんだ、と心の中で小さくツッコミを入れた。


だが、何かがおかしい。鴻舟の中は確かに人でごった返しているのに、中からは何の音も聞こえてこない。門の外の喧騒とは対照的に、内部は異様なほど静まり返っていた。

*やっぱり覚悟を決めた方がいいな。*

俺はゆっくりと門をくぐった。


**体が完全に門の中に入った瞬間、一瞬、体が浮くような感覚を覚えた。** 錯覚ではない。気持ちを整え直し、眼前に広がる光景を見て、俺は呆然としてしまった。**外から見たよりはるかに巨大な建物。そして、さらに増えた人々。**


振り返ると、後ろにはもう道路はない。**広大な空が広がっていた。** 門の向こう側は果てしない空だったのだ。

「こ、ここはどこだ…」

「お母さん…家に帰りたい…」

「なんて美しいんだ、鴻舟は…」

周囲の人々が騒ぎ始めた。不安が人々を包み込む。一部の興奮している者もいるけどな。


しかし、その不安な空気は長くは続かなかった。

**校内放送から声が流れてきた。**

「皆様を突然このような場所へお連れしてしまい、鴻舟管理層を代表してお詫び申し上げます。皆様はきっと緊張し、怖がり、あるいは怒りを感じておられることでしょう。私たちの無謀な行動をお許しください。しかし、どうかご安心ください。悪意は一切ございません。皆様が混乱されていることは承知しておりますが、ご心配なく。皆様の目の前に現れたスクリーンの指示に従い、指定の場所へお進みいただければ、全てが明らかになります」


いつの間にか、人々の目の前には**仮想スクリーン**が現れていた。

自分のスクリーンを見る。『十二科十二組十二班』。なかなか語呂がいいな、とまたツッコミを入れる。

*でも、ずっとここに突っ立ってても仕方ない。指示に従って進む方がマシだ。一歩一歩進むしかないさ。*

このスクリーン、結構親切だ。仮想の経路案内までついてる。ただし、自分の分しか見えないみたいだけど。


案内に従い、目的地に到着した。

**しかし、部屋には誰もいない。** 真っ白な部屋。机が一つ、椅子が一つあるだけだった。俺は椅子を引いて腰を下ろし、長い間待った。それでも誰も現れない。

どれくらい経っただろうか、**一人の人物**が入ってきた。

だが、それはロボットだった。ロボットというより、**アンドロイド**に近い。背はまあまあ高く、普通の服装。**人間と見分けのつかない顔立ち。** ただし、彼は**目を閉じていた**。彼は教壇に立ち、頭をかきながら、申し訳なさそうに俺に謝った。

「すまないな、遅れてしまって。君が塵(じん)くんだね?」俺はうなずいた。

「こんにちは。私はアルファだ。今日から君の担当教官になる。これからどうぞよろしく」

彼は手を差し出した。俺はその手を握り返した。

**手のひらから伝わる肌の感触、そして温もり。** これが非人間の存在だとはとても信じられなかった。

「驚いたか?」アルファ先生は俺の疑問を見抜いた。

「まあ、少しね。技術がここまで進んでるとは思わなかったよ」

「ははは、驚くのも無理はないだろう。でも、俺みたいな非人間の存在に、君がこんなに礼儀正しく接してくれることには、むしろ俺の方が驚いたよ。普通、俺たちを見る人間の大半は、怖がるか、見下すかのどちらかだからな」

「それは…昔、誰かに教わったんだ。『世界の全てに優しくあるように』って」

そう言うと、朝の光景が脳裏に浮かんだ。うん、青春真っ只中の少年には刺激が強すぎる光景だった。

「彼女はきっと、とても素敵な人なんだね」

「ああ。彼女はこの世界で俺が一番愛している人さ」

なぜか、そう言い終えると**ポケットの中の携帯がぶるぶると激しく震えた**。胸に不吉な予感がわき上がる。*後で絶対に姉に無事を伝えなきゃ。*

「そうだ、先生。これからの予定は?」

「うーん…特にないみたいだな。今日の残り時間は自由に鴻舟を探索してもいいし、新人ガイドブックを読んでもいい。ああ、何か疑問があったら携帯から俺に連絡してくれていいよ。それじゃあ、良い一日を、塵くん」

アルファ先生はそう言うと去っていった。


俺は急いで携帯を取り出した。開けると、**姉からの大量のメッセージ**が目に飛び込んできた。『昼には帰る』と姉に伝えた。瞬く間に、**ハートを持った子猫のスタンプ**が返ってきた。

*ったく、心配しすぎだよな。* 思わず笑みが漏れた。携帯をポケットにしまい込む。


次に、**分厚い新人ガイドブック**を取り出した。冊子というより本だ。内容は非常に詳細で、多くの箇所に親切な注釈が付けられ、**可愛らしいイラスト**もたくさん描かれている。一時間ほど真剣に読んだが、ようやく八分の一終わったところだ。

*うん…家に持ち帰ってゆっくり読もう。*

本をリュックに入れようとしたその時、**本の最後に一つの手紙が挟まれている**のに気づいた。そっと手紙を開くと、紙面いっぱいに文字が埋め尽くされていたが、ごちゃごちゃした感じはしない。**手紙の字はとても整っている。**

内容を注意深く読み終え、**新人のガイドブックは全て先輩方が手作りしているもの**だということを知った。これも鴻舟の古くからの伝統なのだそうだ。

手紙の末尾に記された署名を見る。

**神代 綾音(かみしろ あやね)**

*心の中で、この可愛らしい先輩に感謝を捧げた。*

本を大切にカバンにしまった。


十二時までまだ二時間ある。**鴻舟の訓練場を覗きに行くことに決めた。**

春の日差しがまぶしく輝く。俺はその光を浴びながら、目的地へと向かって歩き出した。

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