命を刻む時の旅
吉田圭一
第1話
もし、寿命を犠牲に
過去や未来に行けるとしたら
そんな世界で僕は15歳になった。
僕の名前は時生。中学3年生だ。
この世界には至るところに
時空旅行ができる施設がある。
ただ、施設で時空旅行をすると、
より多くの寿命を払わないといけない。
わざわざ施設に行かなくても、
選ばれればその権利を手に入れられ
一度だけ時間旅行できる。
しかもその場合は、施設から行くよりも
支払う寿命が少なくてすむ。
だから施設から時間旅行する人は、
長生きの自信がある人かせっかちだけだ。
それに施設には色々と噂がある。
おとなしく強い意志を持って、
選ばれるのを待つのが賢い。
「まぁそんな簡単に選ばれるなら施設
から行く人は多くならないよな。
もし選ばれれば、
お母さんに会えるのに。」
そう、
僕は生まれてすぐ、
急病で母親を亡くしてる。
だから母親の記憶はほとんどない。
そんなことを思いながら、
学校から家への帰路についていた。
「ただいま」
もちろん返事は来ない。
母親はいないし、
父親は仕事に行ってるからだ。
寂しいけどそれにも慣れてしまった。
自室に入り、携帯を見ると
父親から連絡が来ていた。
『お父さん、今日も遅くなるからな。
適当に冷蔵庫のご飯食べとけよ。』
最近、お父さんは忙しいらしい。
ちょっと前は、
たくさん話を聞いてくれたのに。
特にすることもなく、
ソファーに座りテレビをつける。
(お母さんに会いたいなぁ)
〖...た。...ました。〗
っん?
〖選ばれました。あなたは時間旅行を
今すぐできます。〗
僕は眠ってたようだ。
そしてこの言葉で目を覚ました。
僕は選らばれたらしい。
施設に行かなくても時間旅行ができる。
お母さんに会える?お母さんに会える!
あと数日選ばれるのが遅かったら
施設で時間旅行してた。
施設ではどのくらい寿命を払う必要が
あるのかわからないのに。
〖今すぐ時間旅行するのですね。
どの年代に行きますか?〗
「15年前、僕が産まれた日。」
その瞬間。
自分の周りがぐわんぐわんと
揺れたように感じた。
目を開け辺りを見回すと
外に出ていた。
そして驚いた。
小学校低学年の頃
よく父親と食べに行ってた
ラーメン屋があったからだ。
(あの店、4年生の時に
なくなっちゃったのに)
〖望み通り、ここは15年前の6月10日
時生様が産まれた日です。
帰る時は帰りたいと
強く願ってください。そしたら
元の時代に帰れます。〗
本当に時間旅行をしてるらしい。
何度も時間旅行した人の話を聞いたり
読んだりしていたけど、
自分が体験していなかったため
噂半分だった。
時間旅行できるようになったのも
つい最近のことだし。
(僕が産まれた〇×病院に行けば、
お母さんに会えるかも)
〖伝え忘れてましたが、
あなたが時生様ということは
時生様の母親以外の方には
バレないようにしてください。
未来が変わってしまって
大変なことになります。〗
確かに、お父さんは今も生きてるし、
僕が時生だとバレたら
大変なことになる。
バレないようにしなきゃ。
でもどうやって
お母さんに会いに行こう。
今の僕じゃ病院に面会に行けないし、
僕を産んだ直後のお母さんが病院の外に
出てくるとは考えられない。
それを考えて、
行く年代を選ぶべきだった。
元の時代に帰ってしまったら
次は施設から行くしかない。
2度も選ばれることはないから。
だからなんとか会える方法を考えよう。
携帯は元の時代に置いてきた。
だから図書館に行って調べよう。
家族や医師の許可があれば、
面会できるみたいだ。
おじいちゃん達でも
大丈夫なようだから
お母さんの友達と偽って、
許可をもらおう。
ピンポーン
「すいません。
千紗さんのご両親ですか?
千紗さんの友人です。
千紗さんとの面会の許可を
いただきたいのですが。」
はーい。
今と変わらないおばあちゃんの声だ。
「千紗のご友人?
ずいぶんと若いようだけど、
あのこが最近子供産んだの
知ってるようだし、許可するから
今から一緒に病院に行きましょ。」
一緒にお母さんの病室に入られたら
かなりまずい。だけど、
「はい、お願いします。
ありがとうございます。」
病院の受付でおばあちゃんが許可証を
発行してくれた。
そして今、それを首にかけてる。
ダメ元で、
千紗さんと二人にさせてくれませんか?
とお願いしたら何故か許可をもらった。
(やっとお母さんに会える
ずっと会いたかったお母さんに)
周りに誰もいないのを確認して、
緊張した手で病室のドアを開く。
いた。お母さんが。
写真で見た記憶しかないお母さんが。
「え、誰ですか?」
当然の反応だ。
「急な話で、
信じてもらえないと思いますが
僕は未来から来たあなたの息子です。
時生です。あなたに会いに来たんです。」
「えっと、
理解が追い付かないんですけど。
つい数時間前に時生産んで
疲れて見えてる幻覚ですか?」
「そうですよね、そうなりますよね
でも信じてください。
僕は時生なんです。」
「頭では理解できないのに
なんだか心では、
信じたいと言ってるよ。」
「それで、未来から来たということは
私はあなたの大きくなった姿を
見れないのかもね。」
「信じてくれてありがとうございます。
一つお願いなんですが、
僕が時生ということは
お母さんにしか
バレてはいけないんです。」
「そう。じゃあ今日は
面会無しにしてもらうから
隠れてなさい。」
そう言ってお母さんは
ベッドの横にあるボタンを押した。
「どうしました?」
「すいません。先生
今日の面会は終わりにできますか?
もう寝たくて。」
「わかりました。」
そう言うと先生は病室から退室した。
「で、何?
たくさんお話聞かせてくれるの?」
「うん。」
それから僕は
寂しさを埋めようとお母さんに
たくさんのことを話した。
「もう帰ります。
お母さんとたくさん話せて
楽しかった。」
「私はあと少ししか
この子の成長を見れないかもしれない
って気持ちでより大事に育てるね。
お父さんのことよろしくね。
もう、嘘ついて病室入るような
悪いことはしないんだよ。」
「うん、ありがとう。バイバイ」
「バイバイ」
僕は病室を出た。
誰にも見られないように、そそくさと。
(帰ります。帰りたい!)
そう強く思うと、
また周りがぐわんぐわんとしたように感じた。
〖楽しめましたか?
お母さんとおばあちゃんに会ったので
15年分寿命をいただきます〗
僕の中から
"なにか"が抜けてく感覚がした。
自分が考えていたより
時間旅行は楽しいものだった。
似たような話が広まれば
時間旅行をする人も増え
今のような
時間旅行に関する噂は
減るかもしれない。
その過程を残りの寿命で
見ていきたい。
そう強く思った。
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