エスカレーターこわい

奈良ひさぎ

もっと乗りたいって意味じゃなく

 『まんじゅうこわい』はまんじゅうがもっと食べたいから、持ってこさせるためにあえて怖いと言う話だが、今回の『エスカレーターこわい』は本当にエスカレーターって怖いよね、というだけの話である。


 思えば私は小さい頃から、下りエスカレーターが苦手だった。子どもながらに運動エネルギーを感じていた……ことはさすがにないと思うが、床が自動で動いていて、つまづくとかなり下の方まで転げ落ちそうだという想像をついしてしまう。東京駅の東海道線から京葉線ホームに向かう道中や、大阪梅田の阪急とJRの間の通路にあるような動く歩道は逆にわざわざ乗りたいと大人になった今でも感じるから、やはり高度が下がるところがカギなのだろう。

 少なくとも幼稚園くらいまでは一人でエスカレーターに乗れなかったし、階下の見通しがよすぎるエスカレーターに乗ると今でも少し足がすくむ。前の人とは必ず一段分空けて乗るようにしているし、思い返してみるとエスカレーターに乗っている時は横を向くことがほとんどで、まず下の方を見ることはない。知らず知らずのうちに意識しているのかもしれない。


 では上りは怖くないのかというと、怖くないわけではない、という微妙な答えになってしまう。というのも、上りであれば転げ落ちる心配こそないものの、やはり自動で動く階段であることには変わりないので、つまづけば前のめりに転んでしまう。実際何度かつまづいてあわやすっ転ぶところだった、という経験が何回かある。私がどんくさすぎるというのは置いておいて、動いているために乗るタイミングを見計らわなければならないという点で、上りでも下りでもエスカレーターである以上リスクはそう変わらない。


 世の中を見てみればあれが苦手、これが苦手という話は枚挙にいとまがないわけだが、エスカレーターが苦手というのは割とメジャーな部類に入るのではないかと思う。そう思って調べてみると、なんと「エスカレーター恐怖症」なるものが存在するらしい。冗談で言ったつもりが大事になるあの感覚に似ている。

 確かにちょっと高いビルには必ずと言っていいほどエスカレーターが存在するので、それに対し恐怖感を覚え、足がすくむ、手汗が止まらないなどの症状が出るとなれば日常生活に支障をきたすのは間違いないだろう。さすがに私はここまでではないのだが、十分恐怖の対象になり得るものだと分かって、どこか安心している。


 エスカレーターもそうなのだが、最近下り階段もちょっと怖かったりする。こちらは動くことすらないので、いよいよ下が見えるとダメなのかもしれない。かといってエレベーターばかり使って楽をしていると、足が衰えそうなので気をつけたい。そんなことをふと思ったのだった。

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エスカレーターこわい 奈良ひさぎ @RyotoNara

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