第3節 爪先
天才少年はいつだって考えていた。
昨日を超え明日をよりよくするための発明を。
自分の過去と未来を。
幼少期の頃より活躍めざましく、数々の賞と名誉を手中に収めてもなお、傲り高ぶることなくよりよい未来を指さしている。
そんな彼を民は信心し、尊敬し、しかし畏れてもいた。
常人を逸脱する思考回路を知るべく、腹と頭を裂こうとした者もいた。
何かの手品だと非難する者もいた。
対して、この世のものとは思えない創造を繰り返す少年は、凡人が眩しく見えた。
他と共に創造し、時に失敗しながらも、僅かな歩みを喜び、肩を組んで生きる人々が羨ましかった。
それでも彼は生み出すことを辞められない。
人間を愛していたが故に、人が求めるものを、望むものを、生み出さずにはいられない。
人々が彼を畏れるのと同時に、彼自身は彼を恐れていた。
彼は、人間であった。
神でも化け物でもない、一人の少年だった。
胸の内には、決してさらけ出されることのない醜い感情もあった。
できないことが何一つとしてないその感覚は、自分が何よりも劣っていることのように感じていた。
誰にもできないことなど何一つないその世界で、それらを一手に明るみに出すことは人々の営みにとって害に他ならない。
それでも彼は、人々のために未来を進む。
過去を憎んでも、歩みを止められない。
少年は、殺される日を夢見て今日も生きる。
人間でなければ許されたのかもしれないと、許してあげられたのかもしれないと思いながら。
今日も人々に悟られぬように静かに溌剌と針を動かす。
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