綻び
第2話 突然のこと
夜の11時。
もうすぐメールが来る時間。
メールなんだからリアルタイムで見る必要はないのだけれど、すぐに見たくてWEBメールの画面を開いて待っていた。
そう言えば、お姉ちゃんの部屋のドアが開く音を聞いていない。
夏休みだから遅くまで遊んでいるのかな……でも、真面目なお姉ちゃんがこんな時間になっても帰っていないなんて初めてのこと。
もしかしたら部屋へ戻っていないだけでリビングにいるのかもしれない。
気になって1階へ下りた。
リビングを覗くと、ダイニングテーブルのイスに座ったお母さんが独り言を言うのが聞こえた。
「
お母さんはテーブルの上に置いてあった子機を手に取ると、ボタンを押して耳へあてた。
けれどもしばらくすると、ため息と共にまた子機をテーブルの上に置いた。
どうやらお姉ちゃんに何度も電話しているのに応答がないらしい。
さっきまで別の何かを放送していたと思われるチャンネルはスポーツニュースに変わっていて、今日あったサッカーの試合のダイジェストが解説とともに流れている。
普段スポーツニュースなんて見ないお母さんがそのままでいるのだから、お姉ちゃんのことで頭がいっぱいだというのがわかる。
大学3年生のお姉ちゃんは絵に描いたような優等生で、わたしの知っている限り、連絡もなく遅いのは初めてのことだった。
「楽しくて時間を忘れてるのかもしれないよ?」
「柚伽をあなたと一緒にしないで!」
ぴしゃりと返された。
少しでも安心させたくて言った言葉だったけれど、それは逆にお母さんの気に障ったようだった。
その時、固定電話に着信を知らせる音楽が流れた。テーブルの上に置きっ放しになっていた子機も光っている。
こんな時間に固定電話が鳴るのも初めてのことだった。
そもそも固定電話にかけてくるのはセールスを除くと祖父母か親戚に限られていて、電話がかかってくるのは朝10時から夜9時まで、という暗黙の了解がある。だから夜の11時を過ぎてかかってくる電話には不吉な予感しかない。
お母さんは子機の液晶画面を見て、訝しげな表情をしながら通話ボタンを押した。
「はい? ええ……そうです……白垣中央警察署? どういう……はい。確かに柚伽は娘で間違いありません……はい……はい……えっ――」
ガタンとイスから立ち上がったお母さんは、力が抜けたように再びイスへ腰を下ろすと、テーブルの一点を見つめたまま動かない。
駆け寄って、お母さんが握りしめたままでいる子機を取り自分の耳へあてた。
けれども電話は既に切れていて、ツーという無機質な音が流れているに過ぎなかった。
「お母さん、どうしたの?」
「えっ?」
びくりと体を強張らせ、わたしを見たお母さんの顔は蒼白だった。
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