第3話 団長!ここダンジョン!

「ふぁ……暗くなってきたな」


 俺は、剣を背負ったままダンジョンの壁に背を預けていた。

 すでに数時間の探索を終え、いまは小休止中。


 ここは“ヴァルタ深層迷宮”。

 魔物の根城になっていると報告があり、討伐のため俺たち騎士団が派遣された。


 迷宮内の広間に仮設テントを張り、今夜はここで一泊。

 団員たちは持ち込んだ食料をかじったり、寝袋で横になったり、思い思いに過ごしている。


 ただ──俺は油断できない。


 だって……


(今夜も来る。あの人が……!)


 そう──セシリア団長。


 あの冷たくて毒舌で、美人で、胸がばるんばるんの団長が。


 魔物を倒したあと、なぜか豹変して俺に発情してしまう彼女が。


 先ほど、ボス級の“魔蟲”を討伐した直後──あの目をしていた。


 潤んだ瞳。赤く染まる耳。さりげなく近づいてきたときの、戦闘後と違う荒い息。。


(あれは、間違いなく……スイッチ入ってる!)


 問題は、ここがダンジョン内だということ。


 俺たちの他にも団員が十人以上、ここにいるのだ。

 そんな中で、この前みたいなのが始まったら──絶対ヤバい!


(なんとか、隠れねば……!)



 ──しかし。


 それから数分後。


 テントの影にそっと立っていた俺の肩に、冷たい手がすっと伸びる。


「っ!? だ、団長!?」


「しっ……」


 セシリア団長は、寝静まった隊員たちの間を縫うように、こっそり忍び寄ってきていた。

 団長の服の前は少しはだけていて、なぜか汗ばんでいる……!?


「……このままだと、耐えられないの。ロウ……こっちに来て……」


「む、無理無理無理! 団員いますって!バレたら俺たち終わりですって!!」


「だから、声を出さないようにって言ってるの」


「うわっ!?」


 ぐい、と手を引かれ、団長に抱き寄せられる。


 そのまま、テント裏の暗がり──物資の影へと押し込まれる。そこは壁と物資とテントの隙間で、見ようと思わない限り見られることは無さそうな場所。しっかり二人分のスペースがある。


 うん、これは団長が指示して作ったな?

 つまり──逃げ場なし。


「……んっ……」


 団長の吐息が、熱を帯びる。


 鎧を脱いだ団長の上着は胸元がゆるく、そこからはみ出す“圧”がすごい。


「ま、ま、ま、まって団長!!さっき討伐したばっかりなのに!?」


「だから、今なの。私の体が……勝手にロウを欲しがってる……んっ」


「言い方ぁあああ!!!」


 ばるんっ。


 まただ。ばるんの時間だ。


 団長が自らの胸当てを外し、圧倒的重量感の双丘を解き放った。


「この前の続き……っ。顔、貸して。……ロウ……」


 ぐいっ、と頭を引き寄せられ、むにゅっと顔が埋まる。


 ああ、これは、だめなやつ。

 甘い匂い、ぬくもり、柔らかさ。

 全感覚がやられる。


「……ん……っ。あっ……こんな……っ」


 団長の吐息が荒い。

 その細い指が、俺の胸元をゆるくなぞる。


 ドキドキという言葉では済まされない。心臓が殴りつけられるように跳ねる。


「っ……くっ……なんで、こんなことに……」


「……私も……わからない……。ロウが……あんな強い剣を振るうから……」


(こっちのせい!?)


「……でも、嫌じゃないでしょう……?」


「そ、それは……っ」


 真っ赤な顔で、団長が上目遣いで見つめてくる。


 団長のこんな顔、誰にも見せたことないだろう。

 たぶん、俺だけ。


 それがなんかもう、脳に来る。


「……ねぇロウ、次の任務でも……その剣、見せて。そしたら……また、しよ? ロウの剣が見たいの……」


「条件おかしいですよ団長!? あと言い方ぁ!」


 それでも、彼女の手が俺の服の中に滑り込んできて──


(誰か来たらどうすんだこれぇえええ!!!)


 


 ◇◇◇


 


 ──翌朝。


 団員たちは、何事もなかったかのように朝食をとっていた。


「団長、おはようございます!」


「うむ。昨夜は特に異常もなく、良い休息だったな」


「(異常だらけだったんですけどぉおおおお!?)」


 団員たちは誰も気づいていなかったようで、俺は心の中で土下座しながら安心する。


 一方で──団長は、すました顔でいつも通り冷たく言い放つ。


「ロウ。今日も訓練だ。逃げるなよ」


「は、はい……!」


「逃げようとしても逃がさないけど……」


 耳を赤くしながら言うのやめて!団長ぉおおお!!


 こうして、俺の団長とのヒミツの関係は──

 今日も誰にも知られず、迷宮の奥に隠されたのであった。




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