第2話 プロローグ
「ハ~イみんなぁー!元気ぃ~?今日も来てくれてありがとぉぉぉーー!」
「さぁ!はじめるよぉー!」
21時ジャスト、彼女の週一回の生配信が始まった。
普段は旅行系のYou Tubeチャンネルを配信している。
「いっぱい来てくれてるねぇーうれしいぃーー♪早速のコメントもいっぱい!ありがとうねぇ♪」
軽くウエーブのかかった黒髪のロング、あどけなさの残る顔をしている彼女は、こう見えて21歳の大学生だ。
「今日はなんの話をしようかなぁ・・・、あっ!そうそう実は私のお姉ちゃんが婚約したんだよねぇ。それで今度その婚約者の彼を連れてくるってぇ。来週かな?両親に婚約の報告に来たいらしいんだ。私はまだ会った事ないんだよぉ楽しみだなぁ!」
屈託のない笑顔でそう語る彼女は、今ではフォロワー数400万人を超える人気絶頂のYouTuberだ。
雑誌やテレビなどで何度も取り上げられていて、知らない者はいないほどに完全にアイドルと化していた。
彼女に憧れてYouTuberを始める者も多い。
仕事から帰ってきた悠斗は、缶ビール片手にコンビニ弁当を食べながら,パソコンの画面を凝視する。
大好きなYouTuberの配信を欠かさず観るために。
「今日も可愛いなぁ~♪」
この配信を見るのが生活の一部であり唯一の癒しだった。
「へぇ~お姉ちゃんの婚約者かぁ・・・そういえば家族の話ってあんまりしてなかったような気がするなぁ」
こうして配信を見るのが日課となっていた。
コメントを入れようとしても、その多さと流れる速さに追いつけない。
「相変わらず凄いなあ」
悠斗は彼女の顔を見ているだけで幸せだった。
今年で32歳になる。この歳まで彼女がいなかったわけではないが、悲しいことにここ数年は女っ気がない。
周りの連中は結婚したり、子供が出来たりしているというのに。
大阪で生まれ育ち、現在は京都府の南部で一人暮らしをしている。
独り身の気楽さから、時々ふらっとカメラ片手に旅行に出かけていた。特に金沢へはよく行っている。
なぜなら、金沢のキャバクラ店にお気に入りの嬢がいるからだ。その子と出会ってから、すでに4年が経とうとしていた。最近では営業メールではなく、昼の休憩時間や日曜日にも連絡が来ていたので「これはいける!」と変な確信をしていた。
実は埼玉にも時々出掛けることがある。やはり埼玉の川越にもお気に入りの嬢がいるからで、この子とはまだ1年とちょっとくらいしか経っていなかったが、変に気が合っていた。
この子と初めて顔を合わせた時に、胸が騒いだのだ。
お気にの嬢に会いに行くためだけに、金沢や川越に出掛けているのだった。観光なんかはどうでもよかった。ただ会いたいという気持ちだけなのだ。
単に女好きなだけなのかもしれないが、それは自覚している。
「なんかこの子って他人って感じがせえへんのよなぁ‥人懐っこそうやからか?まあみんなそう思ってるんやろうけど・・・」
パソコンの画面を見ながらそう呟く。そして缶ビールを一気に飲み干した。
それから数日経ったある日、とんでもないニュースを目にした。
「人気YouTuberの辻野茜さんが何者かに殺害された模様です・・・」
そのニュース画面に映し出された写真を見て絶句した。
ーーえっ!?これって・・・はぁ?殺害?なに?どういうこと?・・・。
訳が分からず、持っていた缶ビールを思わず落としてしまった。
――嘘やろ・・・!!
その時、パッと強烈な光に包まれた。
――えっ・・・?
光ったと思ったら今度は突然目の前が真っ暗になり、そのまま意識が無くなった・・・。
――ん・・・こ、ここは?・・・森??・・・森の中!?
樹々が生い茂った中の、一際大きな木の根元で目が覚めた。
――どうしてこんな所で寝ている?一体何が??
ゆっくりと体を起こそうとしたが、体が痛くて動かない。
ボーっとした頭で記憶を辿ってみた。
木々の間から見える空はやけに青い。雲一つない快晴のようだった。
――ダメだ何も思い出せない
激しく頭が痛い、それに体中も痛くて起き上がることができない。
完全に記憶を無くしたようだ。
それでも何とか激しい痛みに耐えながら、無理やり立ち上がりふらふらと歩きだした。
ここに長くいてはいけないとなぜか思った。
――ここはどこなんだろう?
周囲を見回すと、なんだか全ての木が大きい。
その根元にキノコが生えているのだが、これも異様に大きかった。
ふらつきながらもゆっくりゆっくりと歩いた。
遠くでなにか動物の鳴き声が聞こえる。
かなり深い森のようだ。
時々水の流れるような音がする。近くに川があるのか。
音のする方へ行ってみた。すると小さな滝がありその麓の池に頭を突っ込んだ。
かなり冷たい水だったが、頭が冷えてさっぱりした。
水も飲んでみたが、これはおいしい水だった。
ひたすら歩いてどのくらい歩いただろう、やっと森から抜け出せたようだ。
一気に視界が開けた。
目の前に広がる光景はどこまでも続く広大な大地だった。
その眺めはあまりにも壮観だった。
「ここは山の上だったのか・・・」
それほど高い山ではなく、眼下にいくつかの建物が見える。
「村?」とにかくあの場所まで行ってみることにした。
ここから見える景色はどこまでも続いていて、村の端から一本の道が通っているだけだ。
どこまでも続く道、村の建物以外は何もない。
川が見える。さっきの滝の下流なのだろうか。
その川の対岸の奥には森が広がっていた。
遥か遠くには山が見える。
痛む体に下り坂はきつい。何度も悲鳴を上げながら下って行った。
途中で何度も躓き、転げ落ちたりして、やっとの思いで村の入り口らしき所に辿り着き、その場で意識を失い倒れてしまった・・・。
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