■ 精神科初診記録(診療情報提供書より抜粋)
■ 精神科初診記録(診療情報提供書より抜粋)
患者名:明智 〇〇(仮名)
年齢:38歳
性別:男性
職業:ライター・ノンフィクション作家(自営業)
診察日:2025年6月9日
紹介元:家族の要望により来院(母親と同伴)
担当医:医療法人こころの杜 精神科医・磯貝
1. 主訴:
「家の床が“揺れている”。」「あれが座っているからだ。」
2. 症状経過:
患者は3か月ほど前より岡山県某地域に伝わる“土着信仰”について取材を行っていたとされる。
当初は特に問題なかったが、4月下旬頃より家族の話によれば、「板切れ」を持ち帰ったのを境に様子が変わったという。
一人で部屋の床に話しかける。
食事中も断続的に「揺れてる」「揺れてるんだよ」と独語。
文章に奇妙な言い回しが増え、文章構造も乱れ始める。
夜間に板の前に正座し、口を動かし続けているのを家族が目撃。
2025年6月初旬には「自分が“ゆらゆら”してきた」と訴える。
3. 精神状態の観察(初診時):
表情:平板、時折ひきつるような笑み。
視線:定まらず、時折天井の一点を見る。
言動:単語の繰り返しが多く、文脈が飛躍する。
幻聴:存在を強く示唆。「名前を呼ばれる」「歌が聞こえる」との訴え。
妄想内容:「木の板には神が宿っていて、自分を通して再生しようとしている」「記録を残すことが贄(にえ)となる」等。
4. 診断(暫定):
急性精神病性障害(統合失調症様)を疑う。
ただし文化性・地域性の強い妄想内容を呈しており、**文化依存症候群の一形態(日本における憑依型)**の可能性も排除できない。
所持している“板状の物体”に強い固執を示し、当該物品に触れている間は異常に安定した態度を取る。
5. 所見:
診察中、終始右手をわずかに揺らしていた。
「先生、先生も揺れてますね……」と繰り返し訴える。
記録用紙に無意識に“ゆらゆらゆらゆら”と書き続けていた痕跡あり。
同伴した母親も「最近、家が揺れているような気がする」と発言しており、環境要因の影響も考慮する必要あり。
6. 処置と今後の対応:
精神保健指定医による経過観察と、24時間体制の観察が望ましい。
患者に自発的入院意思は薄く、説得には慎重を要する。
板状の物体は現時点で患者の安定に寄与している側面もあるため、即時の隔離は逆効果と判断。代替案として、封印処置と録音環境の遮断を提案。
患者は「もうすぐ座る番がくる」「ゆらゆらが……くる」など意味不明な発言を続けている。
備考:
最後に退出時、患者が待合室で周囲の患者と看護師に向かって、以下の言葉を呟いていたのが印象的である。
「ぼく、揺れてるんです。中から、ゆらゆらと……“あのひと”の声が……。」
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