■ゆらゆら様に関する報告書■


本書は、牧田一族にまつわる「ゆらゆら様」の事案について、私明智が調査し、記録したものである。依頼は一通のメールから始まった。報酬はかつてゆらゆら様の本堂に置かれていたという、分厚い木の板。神の座とも呼ばれるその板を受け取ったときから、私は次第に――ゆらゆら、ゆらゆら、ゆら…揺らぎを感じ始めている。


最初は気のせいだと思っていた。だが、筆を執るごとに、「ゆらゆら」の文字が次第に揺れて、揺られているように見え、時には「ゆらら」「ゆるゆる」「ゆら…」と勝手に書き変わってしまうのだ。まるで私の意志とは無関係に、この文字が勝手に動き出しているようだ。


この一族の秘密は深い。瘦せ細った老婆の姿をしたゆらゆら様は、赤いワンピースを身にまとい、絶え間なくゆらゆらと揺れている。彼女は生贄を求め、その影響は一族全員に及ぶ。私も、木の板を触れて以来、この「ゆらゆら」の影響から逃れられない。


報告書を進める中で、自身の精神はますます揺れ動き、現実と異界の境界が曖昧になっていった。言葉も文章もまるで水面のようにゆらぎ、揺らぎ、流れていく。私の意識もまた、「ゆらゆら」と揺れているのだ。


ゆらゆらゆらゆら……揺れる文字。揺れる意識。これが、ゆらゆら様の呪いの真髄であろう。

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