第10話 私は逃げない
すぐに駆け寄り、ビーシャ様とテインが回復魔法をかける。しかし、二人とも得意ではない、
その時だ。ヴェネ様が駆けつけてくれた。彼女は世界最高のヒーラーだ。たが、
「駄目だわ、心臓の損傷が激しい、少しでもやめたら、止まるわ」
「誰か助けて、お願いだから!」
そう言って泣きながらジューロにしがみつくテイン。
たが鎮痛な思いだけで、誰も何もできない。
「アリー、いつもすまない、何とかならないか?」
私もさっきから考えている。心臓はその仕組みを理解していなければ治せない。
今やっていることは、出血を止めているだけだ。内部を再構成できていない。
この世界で、心臓の構造を理解できている者はいないし、そんな書籍もない。
だとすれば、別の心臓を移植するか? それなら臓器と血管をつなげばいいのでは?
果たして実例があるか、
「開け私の書庫、医療の棚、心臓移植の書」
あった。
とある金持ち貴族が、死にそうな娘のために、金に糸目をつけず、医者や、最高レベルの魔法使いを数十名集め、罪人の心臓でおこなった記録だ。
手術は、成功し、その後3年間生きたとある。罪人の心臓が強く丈夫だったなら、もっと長生きしただろうと予測されている。
子供の体格に合わせて使った、小さいの心臓が弱かったらしい。
まさか今、生きている人間から奪うわけにもいかないし、代わりに、ここにいる動物や獣で代用? 豚はもうすでに、料理長が捌いた後だし、ウサギは小さ過ぎる。
私は、ハッとした。 カルデスだ。
魔族のそれも四天王となれば、その生命力は半端ではない。
「これを貸してください。エイビス様に剣を借りて、黒焦げのカルデスの胸を開けた。すると、心臓がまだ動いている」
これだ。
いわゆる脳死状態だが、生命力の強さで心臓は動いているのだ。
「一つだけ、方法を思いつきました。しかしかなり難しいです」
「わからないが、どんな方法?」
「はい、心臓移植です」
「そんな事ができるなんて、聞いたことないが」
「過去に例があります。他に方法はありません」
私は言って見たものの、震えている。怖いのだ。できるかどうか、わかりもしないのに、言っているのだから、
そんな私にエイビス様気づいて、そっと肩に手を置き、
「わかった、責任は私がとる。やってみよう」
エイビス様がここまで言ってくださったら、やるしかない。私は腹をくくった。
「心臓を移植します。ビーシャ様はカルデスの心臓が止まらないようにヒールを」
「わかったわ」
「ヴェネ様はそのままジューロを」
「ええ、でもそんなに持たないわよ」
「どれくらい持ちますか?」
「もって1時間ね」
「わかりました」
「エイビス様はアルコールと糸とハサミと小刀を数本、メアリーに聞いて持ってきてください」
「ファントム様は、明るい光を出すシャイストーンを持ってきてください」
これは、わが国では灯台に使われているものだ。
「私は術式のイメージトレーニングに入ります」
こういうと、テインが
「助かるの?」
「わかりません。ただ可能性はあります」
「私にできることは、全力を尽くすことだけです」
「皆さん時間との勝負です。急いでください
」
こうして手術が始まった。カルデスの開胸はすでにできているので、問題はジューロの方だ。カルデスの様に、乱暴に切り裂けない。
日が暮れてきた。
シャインストーンに魔力が込められ発動した。さっきよりむしろ明るいほどだ。
私は、シュミレーション通り開胸した。そして、心臓につながるっている血管を縛った。この時点で彼の心臓は止まった。血管を切り、心臓を取りだした。
この間もヴェネ様は頑張ってヒールをかけている。世界トップといわれるヒーラーがいなかったら、そもそもこの時点で終わりだろう。凄いことだ。だか、苦しそうだ時間は無い。
続いて、カルデスの心臓を取り出した。カルデスの心臓も一旦止まった。カルデスにもう用はない。私は素早くひもで縛ってあった血管を縫合した。
そしてその縫い目にヒールをかける。また、縫合してはヒールをかける。それを繰り返していった。
ビーシャ様は連係よく、ヴェネ様にドレインタッチをして、魔力供給をした。
そして、どれくらいたったことだろう、心臓をつなぎ、全ての血管をつなぎ終えた。
いよいよ、紐をほどき、血管に血を流す時が来た。
「それでは行きます」
みな息を飲んだ。
スル、スル、スルと次々に紐をほどくと血が流れはじめた。
動かない。駄目か?
「ジューロ目を開けて!」
悲痛なテインの声が、響く。
「ほら、好きなだけ触っていいから」
そう言って彼の手を胸にあてた。
もう、そんなテインを見ていられない。
私はここを逃げ出したい。しかし…
まだだ、まだ手はある。
「ビーシャ様、彼にクリティカルライトニングを」
「わからないけど、わかったわ!」
「クリティカルライトニング!」
彼の体が痙攣して浮き上がった。
「もう一度!」
しかし、次の瞬間だ、微かに見えた。
心臓がトクンとなった。すると続いて、ドクン、ドクン動き出した。
動いた、動いたのだ。心臓は力強く動いている
すると何と、驚いたことにすぐ、ジューロが目を覚ました。そしてテインの胸に自分の手があるの事に気づき、
「ここは、天国?」
そう言った瞬間エイビス様が
「やった、やったぞ!」
そう言うと、いつの間にか取り囲んでいた兵士達から歓声が上がった。
「やった〜、バンザ〜イ」
そして、離れて心配そうに見ている来賓客たちに向かって
「助かったぞ〜!」
そう叫ぶと、あちらでも歓声と拍手が起こった。
ファントム様は涙を拭かず、泣いて立ち尽くしていた。なんだかんだと言っても孫は大事なのだろう。
ヴェネ様はまだ、ヒールをかけつづけ、ビーシャ様は、魔力を供給しつづけている。やはり二人は底力を隠している。
私が逃げなかったのは、この二人のおかげだ。
何しろ世界最高の魔法使い二人がいて、できないことなど、そう思えたのだ。
私はそのまま彼の胸を縫合して、手術を終えた。
私は達成感で少しボーっとしていが、エイビス様が、
「よくやったアリー」
そう言って強く抱きしめてくれた。
「エイビス様!」
声をかけると、なぜか恥ずかしそうに、慌てて離した。
感無量とはこのことだ。もう死んでもいい、でも死にたくない。
さて、もうとっぷり日が暮れ。かなり遅れてエイビス様の誕生日会のクライマックス、夜のパーティーが始まった。
いよいよ婚約者候補が決まる。なぜ候補かというと、候補者にエイビス様がプロポーズして、相手が了解をし、初めて婚約者となるからだ。
つまり、お相手が了解するまでは、婚約者候補、了解すればその瞬間に婚約者だ。
パーティーが始まって1時間、いよいよエイビス様と、ラメーノ様が登場した。
すると、ラメーノ様が
「本日は、お忙しい中、皆さんお出でいただいたことに、心から感謝いたします」
「ただ、発表前に、先にやらなければならないことがあります」
うん?なんだ? 私はエイビス様と、ラメーノ様の後ろの壁際に控えていた。
「ジューロ、入りなさい」
「はい!」
びっくりだ、テインが肩を貸しているが、あれだけの重傷だった彼がもう起き上がっている。
「ジューロ、怪我はどうですか?」
「はい、不思議な事に、もう傷が塞がっているようです」
「それに、力が溢れてきます」
「それは、良かった」
「それでは、ここに発表します」
「あなたは、王妃である私を救うために、多大な働きをしました。よってここに、ナイトの称号を与えます」
ジューロは周りを見て、いいのかな?という感じだったが、前に出てひざまずき
「ありがとうございます。謹んでお受けいたします」
すると、すぐに大きな拍手で讃えられた。
テインも嬉しそうだ。
「報奨を与えます。何かほしいものはありますか?」
「それなら、ここにいるテインとの結婚をお許しください」
アメーノ様は少し考えて、
「近くに寄りなさい」
そう言ってジューロを呼ぶと、小声ではなした。そして、ジューロはうなずいた。
後で教えてもらったが、しばらくは、テインの変身を解かないで正体を隠すようにとの事だ。
「いいでしょう、結婚を認めます」
「テイン、あなたもそれでいいのですね」
「はい! ありがとうございます」
さらに拍手喝采となった。
彼らが下がると、ラメーノ様が
「いよいよですが、婚約者候補に選ばれた方も、そうでない方も、本日来てくださった方々には、今後も末永く親しくお付き合いさせていただきたいと、考えております」
「それではエイビス!」
「はい!」
いよいよだ。私が選定した候補者以外に考慮すべき方はなかったと聞きている。
あとわずかのこの時間に、これまでの事が思い出される。
苦しかった事、楽しかった事。
婚約者が決まれば、今までの様にお側にいると、相手の方は面白くないだろう。サヨナラ。エイビス様、私の愛した王子。
エイビス様は前へ進み、ビーシャ様の前でひざまずき
「ビーシャ、君は全てにおいて素晴らしい、どうか私と結婚してください」
「はい、お受けいたします」
しかし、彼女はなぜか、急に来賓の方を向いた。
「よっしゃー!」
手を上げ、大声で喜びを表した。なんとも面白い方だ。
「今回はもう1人決めました」
もう1人いる。その言葉で皆に緊張がはしった、誰だろう?
あれ? あれ?
なぜかエイビス様が私の前にいる。
「アリー、ずっと前から愛していました。僕と結婚してください」
なぜエイビス様が?これは夢? 私は考えがまとまらない。ただ涙が溢れてきた。もうどうにも止まらない。一つ言えるのは、これからも、エイビス様の側にいられるのだ、それだけはわかった。
ただ、だだ、泣いている私に、ビーシャ様が、
「アリー、返事をしてあげて、でないと、いつまでもひざまずいてるわよ!」
私は我に返り、これが現実でなく夢でもいいや、夢の中だけでも幸せで、そう思い返事した。
「はい、私もずっと愛していました。よろしくお願いします!」
こうしてやっと返事ができたが、ラメーノ様がフォローしてくれた。
「おめでとうアリー」
「皆さん、アリーは私と同じ、ナンバーズです。先程の活躍も見ていたでしょう。彼女は十分ふさわしいのです。祝って上げてください。」
ラメーノ様はナンバーズだったのか、
そう言うと、パチパチ拍手がはじまり、やがてそれは、大拍手になった。
「エイビス、あなたが馬鹿でなくてよかったわ」
「それはどういう事で?」
「だって、アリーはあなたにとってなくてはならないのに、手を出さないから」
ハハハ!
苦笑いだ。
これで今日は、ハッピーエンド、と思ったら
ラメーノ様が
「さあ、今夜のクライマックスよ」
えっ、これ以上何があるの?
ラメーノ様が懐から笛を出した。
"竜笛"だ。しかも、私の者ではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます