第9話 王妃は逃げない
私が読心術を詠唱し、セリーナ様に振れると様々な声が聞こえてきた。
「助けて、父上と母上を」
「ラメーノ様を?」
「魔族はまだ、あきらめてない」
目的がわかった。ラメーノ様だ。やはり自分たちにとって、最大の障害と考えたのだろう。
運がよかった。ラメーノ様はまだ、自室に控えていらっしゃる。
セリーナ様の退出後、ラメーノ様の部屋に、皆で集まった。そしてラメーノ様が目的
であることを告げた。
ここには、いつものメンバーに加え、ヴェネ様とラメーノ様の護衛隊長がいる
「とりあえず、わからないようにお逃げください」
ヴェネ様が言った。
「なりません。来賓の方々をおいてなど」
「なら、戦いますか?」
エイビス様が言った。そして、
「ヴィーシャさん、勝算はどれくらいありますか?」
「3割くらいかしら、それと、ビーシャって呼んでください。”さん”はいりません」
苦笑いをした。
それにしても驚きだ。勇者一行のビーシャ様とヴィネ様と護衛の方が数百名もいて3割とは、
「そんなに奴は強いのですか?」
ヴィネ様が説明してくれた。
「はい、エイビス様、そもそも魔王軍四天王は、一人倒すのに、勇者一行全員でやっとでした」
「残念ながら、今ここに勇者クロックも、前衛のダイもいません。彼らに匹敵する猛者もおりません」
きつい言葉だが、事実なのだろう
「なにか弱点でもないっすかね」
ジューロが言った。
まただ、ジューロはいつも発想を転換させてくれる
「テインを呼びましょう」
先日捕らえて、今はここで働かせているものがいます。
「え、大丈夫なの?」
ヴィネ様の問いかけはもっともだ。
「ああ、それなら大丈夫、私が保証します」
何とラメーノ様がおっしゃられた。やっぱり知ってたか~、私はエイビス様と顔を見合わせた。
テインが呼ばれた。
「早速だけどテイン、カルデスの事を聞きたい。弱点や使う技について、知っていることがあれば」
「氷系の魔法が得意で、弱点はないですね」
「スピード、力は魔王に匹敵するし、魔力はビーシャ様に匹敵するわ」
するとビーシャが
「訂正するわ、今の情報からすると、勝算は一割ね」
また、ヴィネ様が説明してくれた。
「つまり、スピードとパワーで足止めできる者がいなければ、詠唱時間をフォローできないということ、私とビーシャが無効かされるわ」
「でも、姉さんなら、何とかなるんじゃ、何でいないの?」
私たちは気づいて絶望した。
「その方はどんな方なの?」
すると、ファントム様が、
「私の孫娘で、ドラゴンバスターの称号を持っています」
「それは凄いわ、その方はどこに?」
エイビス様が
「やられました。領地堺の地まで魔物退治に行かせております。おそらく陽動作戦かと」
絶望的に勝てる見込みがない。
するとラメーノ様が
「アリー、何とかならないの?」
ヴィネ様は何でメイドごときに?という顔している。
少々お待ちください。強敵にいつか出あった時のことを考えたことがある。
「開け私の書庫、罠の書、竜を捕らえる罠」
あった。
「”アテナのバラは”どうでしょう。竜でも断ち切れないそうです」
「え、それって詠唱時間が必要よ、前に使って逃げられたわ!」
「ビーシャ様、これはあらかじめ、魔法陣を描いておけば、魔力を流すだけで発動します」
「発動にかかる時間は0.5秒、逃げる時間はありません」
「それはあり、ですな。そもそも今ほど我々が強くなかった時代、強い魔物を倒すには、罠をよく使ったものです」
ファントム様が賛成すると皆がうなずいた。
「アリーさん凄いわ、うちの大学で働かない?、給料は今の倍出すから!」
これは魅力的な話しだ。有能な婚約者に囲まれて幸せいっぱいのエイビス様、そうなれば私は用済み、この場合の身の振り方も重要だ。
するとラメーノ様が、
「私のところなら、3倍出すわ!」
これは凄い評価だ。
「今はそれどころではありません。第一僕がアリーを手放すはず無いでしょう」
ちょっと嬉しい。
私は、この計画について説明した。
「アテナのバラの罠を仕掛けるには、やはり屋外がいいでしょう、海が見えるテラスの手前の庭がいいと思います」
「問題は、とうやってカルデスをどうやっておびきよせるかです」
「テイン、カルデスが興味をいだくものは、ありませんか?」
私が聞くと、
「え〜、そう言われても、あ、女好きです」
「それはいい情報ですね、どんな女性が好みかわかりますか?」
「うーん、わかりませんが、よく周りに侍らせている女性は、髪が長くて、綺麗で」
「そうそう、貧乳、いえ、胸が控えめです。よく考えたら、私やレインにも声をかけたことがないから、可能性高いです」
「だとすると、この中でそれに合致するのは〜」
皆、一斉にビーシャ様を見た。
「ちょっと〜、私は貧乳じゃないから、世間一般的には普通だから、ここにいる皆が大き過ぎるのよ」
お怒り気味だ。
苦笑いをしつつ無視して、話しがすすめられた。
「でも、そうすると、魔法陣を発動させるのはヴェネ様になるでしょうか」
すると、テインが、
「そもそも、ビーシャ様もヴェネ様も無理よ、カルデスは魔力探知ができるわ、魔力値の高い二人が近くにいれば、警戒されちゃう」
これは、困った。そこまで私は計算に入れていなかった。しかし…
「私がやるわ」
「私なら、まだ奴に見られていないから、抜け出してもわからないし、魔力値も低いから警戒されないわ」
テインが名乗り出た。
皆、顔を見合わせたが異存はないようだ。
「それなら、私は、それ!」
ヴェネ様がテインに魔法をかけた。
すると、テインの角が見えなくなり、メイドの姿になった。
「これなら、遠目に見て誰だかわからないでしょう」
その後、作戦の詳細を決めた。
「どうでしょうか、これの成功率は」
ビーシャ様に聞いてみた。
「これなら、7割くらいあるかしら」
「よし、7割あれば、十分、やりましょう、配置についてください!」
皆、部屋を後にした。私が最後に部屋を出るとテインがジューロに捕まっていた。
そこで私が近づくと、ジューロは去っていった。
「テイン何かあった?」
私が聞くと
「う〜ん、心配してた、同族を殺すことに」
私はしまったと思った。よく考えたら彼女は殺すことが嫌いで、しかも相手は同族だ。精神的にキツイはずだ。
「でも、大丈夫よ、私の居場所はここしかない、自分を守るために、頑張るしかないわ」
そう言って、歯をくいしばった。
ジューロにしては、ナイスフォローだ。今回ばかりは、彼に感謝だ。
こうして、作戦はスタートした。私がまず庭に魔法陣を描くことからはじまる。
ちょうど春の4月の花が散って散乱しているので、花びらで魔法陣を隠した。テインには、メイドとして、それを片付けるふりをしてもらう、他にも庭師のふりをしたジューロを配置した。
私は大広間に戻って、皆に合図した。兵士の皆さんは、元の警護場所から動いていない。それぞれの持ち場にいて、合図で飛びかかるのだが、近い者もいれば、遠い者もいる。
ファントム様は庭へ続く出入り口付近に、ヴェネ様は、ラメーノ様のお側について、もし失敗なら、即連れて逃げてもらう予定だ」
ビーシャ様が行動を始めた。
わざとカルデスの前で髪をかき上げ、上目遣いで彼を見た。目があったところで、外へ出た。
庭を横切り、テラスへ向かってもらうのだが、果たしてカルデスが、ついて行くだろうか、
カルデスは、急にまわりをキョロキョロしだした。そして外へ向かった。かかった。ビーシャ様、お見後だ。
私とエイビス様も後を追った。ビーシャ様は、すでにテラスのイスに腰掛けて、物憂げに海をみつめている。うーん役者だ。
カルデスは身なりを整えながら近づいていく。口説く気満々だ。
緊張の一瞬だ。私がドキドキしているのだから、近くにいるテインは、それ以上だろう。
罠のポイントまで、あと5メートル、4.3.2.1
次の瞬間"アテナのバラ"は発動された。一瞬にして太いバラの茎がのび、カルデスに巻きついた。
合図の笛が鳴った。
罠にかかって動けないカルデスに、一斉に飛びかかる。その間わずか3秒ほどだ。
成功か!そう思われた瞬間に、カルデスが技を放った。
「アイスストーム!」
飛びかかった者達が皆吹っ飛ぼされた。
さらに、
「アイスブレード」
そう言って、バラの茎を切り裂いた。
「舐められた者だな、竜と同程度だと思ったか」
失敗だ。素早くビーシャ様が私達の元へ来た。ファントム様もまだやれるようだ。
「アリー失敗よ。私が時間を稼ぐ、その間にラメーノ様を」
私もそのつもりだったが、それは同時に、この場にいるすべての者を見捨てることになる。少し悩んだが、
「いえ、第二案でいきます」
「え、まだ何かあるの?」
「はい、例の威力を倍にする魔法陣を描きます。それを使ってください。」
「わかりました。私と残りの兵士で少しでも時間を稼ぎます」
ファントム様がそう言ってくれた、しかし次の瞬間、カルデスが隠れているテインに気づき、向かっていった。テインが誰かバレたようだ。
「おのれ、裏切り者が、八つ裂きにしてくれる」
そう言って、氷の剣を振り上げた。テインは震えて動けない。ビーシャ様も、ファントム様も間に合わない。もつ駄目、そう思った瞬間だった。
「キーン!」
刃と刃がぶつかる音がして、氷の剣を受け止めた。ジューロだ。吹っ飛ばされたと思ったが、耐えていたようだ。
「ほう、私の剣を受け止め者がいるのか、これは面白い」
「俺の妻に手を出すな!」
いつから妻に?
「ならば受けて見るがいい」
「アイスキャノン!」
無数の氷の刃がジューロに向かっていく
これをすべて叩きおとすジューロ、凄い、いつの間にこれほど。地獄の修行は伊達じゃなかったか。
しかし、これはチャンスだ。私は急いで魔法陣を描いた。
必死に耐えるジューロ、だがカルデスの魔力は衰えない。次第にスピードも速くなっていく、ジューロの体にいくつか当たりはじめた。
「ウォー、まだだー!」
耐えるジューロ
「できました」
すると、私の様子を見ながら、すでに詠唱を終えたビーシャ様が叫んだ」
「トリプルライトニングアロー!」
気付いたカルデスは、咄嗟に氷のシールドをはるが、1本目の矢がシールドにヒビを作り、2本目の矢が破壊し、3本目の矢がカルデスを貫いた。
やったか、黒焦げになっているカルデスに近づき、確認すると、魔力の核がバラバラに崩れた。やった。そう思った次の瞬間テインが絶叫を上げた。
「いやー!」
見ると、ジューロの胸に氷の刃が突き刺さっている。
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