30分のしずく

午後の部屋に、うすい光がさしていた。


洗濯機が止まった音がして、ふと腰を上げようとして、目の端に置いてあるオイルタイマーに気づいた。


昔どこかでもらった、細長いプラスチックの容器。中には色つきのオイルが浮かんでいて、上下をひっくり返すと、ゆっくりとつぶが流れ落ちる。


なんとなく手に取って、ひっくり返した。


ちいさな丸い粒が、ぽとん、ぽとん、と透明な液体の中を落ちていく。

同じスピードで、同じ形で、同じ場所に。


「へえ…」


無意味だし、特別きれいなわけでもないのに、なぜか目が離せなかった。


全部落ちきったら、また上下をひっくり返す。

粒が落ちるのを見届けて、またひっくり返す。


それを何回も繰り返していた。


落ちる速度がちょっとだけ速くなった気がして、次は遅く感じて、たまに空気の泡がまじって、落ちる粒の形が少しだけ歪んでいたりする。


そういうのを、ぼんやりと眺めていたら、携帯のアラームが鳴った。


「洗濯、干す時間だよ」の通知。


え、と思って時計を見ると、30分も経っていた。


そんなに…? という驚きと、でもなんとなく納得のいくような、不思議な気分だった。


静かな時間って、あとから気づくと、ものすごくやさしいものだったりする。


洗濯物を干しながら、さっきのオイルタイマーの、ぽとん、ぽとん、という音がまだ耳の奥に残っていた。

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1000字くらいの身近な話 千葉朝陽 @a_chiba

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