全然減らないペロペロキャンディ

駅前の小さな駄菓子屋で、それを見つけた。

うずまき模様の大きなペロペロキャンディ。

赤と白と、ところどころにピンク。

まるで漫画の中から飛び出してきたような、夢みたいな見た目だった。


「…こういうの、一度は食べてみたかったんだよな」


店の奥で、無言で新聞を読む店主にお金を渡して、飴をひとつ。

カラン、とベルの音が鳴るのと同時に、キャンディの包みを開けた。


手のひらよりずっと大きい。

くるくるのうずまきは、陽に当たってキラキラしてる。


ちょっと恥ずかしい気持ちを押し込めながら、ぺろり。


…甘い。

なに味って言いきれないけど、赤と白の味がする(気がする)。

やさしくて、懐かしくて、ちょっと人工的で、でもそれがいい。


ぺろぺろ。


歩きながら、ぺろぺろ。


信号待ちしながら、ぺろぺろ。


ベンチに座って、ぺろぺろ。


…で、ふと見たとき。


「減ってない」


さっきよりちょっと表面がなめらかになった気はするけど、サイズはほぼそのまま。

うずまきの中心まで、何光年かかるのこれ。


ぺろぺろ。


ちょっとだけ、角度を変えてみる。ぺろぺろ。


まだ…ある。というか、全然、変わらない。


飴を持つ手がだるくなってきて、しかもベタベタするし、

「あれ、これ本当に最後まで食べ切れるのかな…」

そんな疑問が、甘さといっしょに舌にのってきた。


周りを見回しても、同じような飴をなめてる人はいない。

当然か。


ぺろぺろ。


時計を見ると、買ってからもう20分以上たっていた。


そのとき、通りすがりの小さな子どもが、指をさして言った。


「おかあさん、あれ! おっきいあめ! 」


思わず笑ってしまった。


うん、そうだよね。

夢みたいな、漫画みたいなペロペロキャンディ。

ちゃんと手に入れたし、味わったし、目立ったし。

もう…いいかな。


ぺろりと最後にひと舐めして、コンビニで買った小さな袋に、そっとしまった。

べたつくけど、ちょっと誇らしい。


飴はまだまだ大きくて、うずまきの中心ははるか彼方。

けれどそれでも、なんだか今日がちょっと楽しくなった気がした。

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