第4話 寒空の御御足
「うわ、さむっ」
肌を刺すような冷気が、体の芯まで染み込んでくる。吹きつける風が骨を軋ませるほど冷たく、思わず肩をすくめた。
星がうっすらと輝き、辺りはしんと静まりかえっていた。小川のせせらぎが聞こえるほど静かな夜。その静寂が、余計に冷たさを際立たせる。
寒くなければ、ただただ空を見上げて過ごしていただろう。
小さな体で寒さに耐えるソラにずしりと心が沈む。足元にいる白猫に家に入るよう促したが、それでも好奇心が勝っているらしくて拒否されてしまった。
長く吐いた息が口元から白いもやとなって舞い上がる。
……寒い。寒すぎる。さっさと行って帰ってこよう。
傘の持ち手を掴み、挿絵の女性と同じようにまたがる。
……これ、絶対股間が痛くなるよね?
とにかく、いったん意識を集中だ。集中、集中……。
傘に魔力を流すと、足先がゆっくりと地面から離れた感覚があった。
――うまくいったらしい。ほっと息をついた。
箒より厚みがあるから尻は今のところ無事だが、着流しの格好のせいで、裾がめくれて太ももが露わになっている。こんな姿で飛んで行ったら、現場の人間に“変態魔導士”とか呼ばれかねない。
それに寒い。
脚を戻して、横向きに腰掛けてみることにした。
おお、さっきより全然いい。
姿勢を崩すとひっくり返るだろうから、腹筋を鍛えるのに便利かもしれない。
……まあ、ふざけている暇があったら、さっさと行かないと。
くだらないことを考えていたら、足の甲に何やらやわらかい衝撃が。
「さむいい。さむいよー」
震えながら足にぽむぽむ猫パンチ。かわいいけど、こっちは落ちそうでたまらない。
「はい、わかりました。わかったから足やめて」
ソラを抱えて着物の懐に入れた。
――ああ、そうだ。いい物がある。
ゴムの製造工程を思い描く。温かい湯たんぽを想像すると、右手にほんのり温かみが宿り――白い樹液がとろりと浮かび上がった。
凝固しながら形を変え、ふくらんで、そして目の前にゴム製の湯たんぽが現れた。
中に入れる水は俺の魔法で作れないけど、温かい状態の湯たんぽなら魔法で作れる。これさえあればソラが凍えることもないし、自分の腹も温かいから一石二鳥だ。
尻尾のひとつもはみ出ていないのを確認し、街の方を指差す。すると和傘は石突きを先頭にして、静かに夜空を滑り出した。
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