第8話:ブラコンエルフ(恐怖)

 少し豪華な夕食を終えた翌朝のこと、一日泊まって行ったリアを見送って俺はそのまま懺悔室を開いて、今日もバイトを始めた。

 

「今日で一週間、何事しかなかったけど……はぁ、頑張るか」


 自分を鼓舞するためにも少し口に出したのだが、自然に溜息が漏れてしまった。

 思ったより疲れてたのか……自分とも思ったが、最初のが杞憂だったとはいえ殆どの相談がやばかったので多分仕方ない。


「そういえば昨日の子はどうだったんだろうな」

 

 この過酷な相談室で僅かな癒やしとなってくれた名の知らないい少女。

 兄にプレゼントしたいという純粋な相談だったし、無事に成功してほしいとそう思った――願わくばその兄妹に祝福をと祈り、一人目の相談者を待つ。


「この前はありがと」

「あ、あの時の相談者様ですね。今日はどうしましたか?」

「うん、逆にプレゼントまで貰えた」

「それは、良いお兄さんですね」


 口調を改め、前回の仕事ぶりの少女と話す。

 律儀にお礼までしにくるとはなんて良い妹さんなのだろうと思いつつ、やはり流れそうになる涙を堪えて会話を続た。


「うん、最高のお兄ちゃんだよ」


 あぁ、これこそが兄弟愛。

 なんて素晴らしいんだろう、そしてこういうのがあると思うと、魔王と戦って良かったなと心底思える。


「あのつかぬ事をお聴きしますが、どういうプレゼントを渡したのですか?」

「恥ずかしいけど、同性だし教える」

「ありがとうございます」


 純粋な好奇心。

 それだけ想われるお兄さんのことが気になって、そのお兄さんがほしい一番の物というのというのが気になって、彼女に聞いた――いや、聞いてしまった。


「私に黒いリボン巻いてサプライズした」


 ちょっと――いや、凄く待って?

 その状況に凄いというか、半端ないくらいの既視感があるんだ。

 え、聞き間違いってことで寝て良い? でも、この妹さんがそんな頭悪いプレゼントする筈がないと思った俺は、苦肉の策で聞き返す。


「――あのぉもう一度お願いします」

「……ん? 声小さかった?」

「いえ、ちょっと理解が追いつかなくて」

「確かにシスターだもんね。ぷれぜんとはわたし……大作戦だよ」


 へぇー俺と同じようなことされた相手がいたんだなーって。

 現実逃避がてらにそんなことを考える。

 昨日経験したばかりのこの状況。ここまでの話に頭を痛めるが、俺にはまだ否定できる材料があるから逃げることができるから。


「そんなプレゼントがあるんですねー」


 だって、リアは。

 俺の知るリア・アルスエルは。

 誰よりも俺達を助けてくれた最強の魔法使いは――兄妹などがいない、一人っ子なのだから! 家族は母親のみらしく、なんなら義兄弟もいないから兄妹に憧れてるという話は聞いたことがあるが……彼女の母親に聞いた話だと絶対に一人っ子。


「あのもう一つ聞きたいのですが、お兄さんとは何歳差なのですか?」

「……? えっと確か、九百八十ぐらい?」


 俺の年齢は二十。

 知る限りのリアの年齢は丁度千ぐらい。

 よし、当てはまるけど……きっと聞かされてないだけで兄がいたんだろう。それはそれでちょっと寂しいけど、そういうことにしよう。


「ねぇ、もうちょっと話して良い?」

「……ど、どうぞ?」


 だけど、俺は忘れていた。

 とにかくリアは一度好きなものを聞かれたりすると、一気に口数が増えることを。でも彼女はリアじゃないから、いいかなって思ったんだけど。


「お兄ちゃんはね、ずっと封印されれた私を助けてくれて守ってくれて、ずっとこんな弱い私を頼ってくれた優しくて笑顔をくれた人。四年会えてなかったけど、再会して逆にまた何かをくれて――ずっと大好きなんだ」


 所々違和感はあるが、境遇というか語られるエピソードがリアとのことばっかり。もうそろそろ否定できる材料がなくなってきた中で、最後のトドメが。


「まぁ、血は繋がってないし種族違うけど」

「そういう兄妹もいるの、デスネー」

「うん、いつか結婚したい」


 そうなんだーと……自棄になる思考回路。

 反射的に緊急用の魔道具を作動して、相手の顔を見てみれば……そこには俺の仲間の魔法使い……エルダーエルフのリアがいた。


「………………ははっ」


 おまえ、俺の妹じゃないじゃん。

 そもそも……えぇ。

 これまでの話が全部怪談に変わった瞬間、俺の心は死んだ。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る