元最強の殺し屋は普通の高校生になりたいようです。

海野源

第1話俺、普通に生きたいんですけど


——その日、目覚めと共に俺は“殺気”を感じた。


瞬間、反射的に枕元の目覚まし時計を手裏剣のように投げる。

カァン!と壁に刺さる音がしてから、3秒後。


「……あっぶね、またやっちまった……」


俺の名前は神谷 零(かみや・れい)、16歳。

見た目はちょっと整ってる一般高校生。中身は、元・殺し屋。


殺し屋といっても、半端な組織じゃない。国家レベルの影の部隊アリスで、幼少期から訓練漬け、15歳で“首なし死神”の異名を取り、敵組織から懸賞金1億をかけられた。


……だが、辞めた。


いや、もう無理だった。精神が持たない。


血と銃声と任務に疲れた俺は、引退を決意。表の世界で普通に生きるため、戸籍を偽装して高校へと入学したのだ。

俺の願いはただ一つ。


「普通に、生活したい……!」


いやマジで。恋とか、ラーメンとか、コンビニとか、ドッジボールとか、そういうやつ。


でも。


普通って、案外難しい。


 


 


◆ ◆ ◆ 


 


「——おっはよー! 神谷!」


登校して3秒、背後から陽気な声と共に強烈なタックル。

俺の背に、エネルギーの塊・真鍋仁(まなべ・じん)が突っ込んできた。


「っつう! 仁! 背後から飛びかかんな!」


「いや〜、なんか神谷って背中から襲いたくなるオーラ出てんだよな! 動物で言うとアライグマ?」


「そんなん出してたら、俺今頃刺されてるわ!!あとアライグマって結構凶暴らしいぞ。」


——っていうか、殺されてるわ、が正しい。


普通の人間は、そんな気配察知して即座に対応できねえんだよ……。

自然に反応して、肘でカウンター入れそうになったわ……あぶねぇ……。


「今日クラス替え発表だな〜! 神谷、同じだったらよろしくな!」


「うん、まあ、よろしく……(お前と同じクラスだったら毎日地雷だらけだ……)」


 


 


◆ ◆ ◆ 


 


白鳩学園——その名の通り、平和そのものの学園。

普通の生徒、普通の授業、普通の青春。

俺が求める“普通”が、ここにはある(と信じたい)。


掲示板に貼られたクラス表を確認する。


——1年B組・神谷零


そして隣には、


——1年B組・真鍋仁


あ、やっぱお前いるのか。ハードモード確定じゃん……。


さらにその下には、


——1年B組・椿ほのか


「おはようございます、神谷くん。ネクタイの角度が3度右にズレています。減点です」


いきなり現れたのは、異常に真面目で完璧主義な委員長系女子・椿ほのか。

制服の着崩しなんて一切許さず、座る姿勢も軍人のように一直線。


「減点てなんだよ!? なんの採点だよ!? 学校って減点式なの!?ホグワーツ!?」


「人間とは、常に己を律して高みを目指すべき存在ですから。」


「いや悟り開いてんの!?」


 


 


◆ ◆ ◆ 


 


教室では、もう一人の人物が目立っていた。


窓際の席でにこにこ微笑んでいるのは、花守心音(はなもり・ここね)。

ふわふわした印象で、いつも笑顔。見た目も雰囲気も、完全に癒し系。


「神谷くん、今日もすごい目つきしてる。もしかしてまた“誰かに狙われてる”とか思ってない?」


「……思ってません(めっちゃ警戒してた)」


この子、実はクラス一鋭い。


一見おっとりだけど、観察力が異常で、ちょっとでも挙動がおかしいとすぐ気づく。

俺が一番気をつけなきゃいけない存在、それが心音だ。


——しかも、なんか俺のこと興味あるっぽいのが、また怖い。


 


 


◆ ◆ ◆ 


 


放課後。


職員室の影で、制服姿の少女がひとり、こちらを見ていた。


黒髪をキリッと束ね、鋭い眼光で俺を観察するその子の名は——八坂美月(やさか・みつき)。

公安直属の諜報部員でありながら、なぜか俺と同じクラスに転入してきた。


美月(心の声)


「神谷零……やはり、ただの一般人ではない」

「すべての動作が、訓練された戦士のそれ。間違いない、“首なし死神”の生き残りだ……」


→ でも尾行がド下手。電柱にぶつかってバレる。


「(……バレてねぇよな?)」


「(……バレてないわよね?)」


どっちもギリギリで保ってる。


 


 


◆ ◆ ◆ 


 


夜。自宅の一室。


机の引き出しには、かつての装備が封印されている。

銃器、毒、変装道具——すべて“文房具風に改造”してあるのが、また哀しい。


俺「……もう使わねぇって決めたんだ。俺はただ、普通に……普通に生きたいだけなんだよ」


テーブルの上には、今日クラスメイトがくれた“プリントクッキー”。


そして、隣には「校則一覧」と「家庭科の持ち物プリント」が並んでいた。


「明日は体育だっけ……。投げすぎて壁に穴開けないように、気をつけよう……」


 


 


> これは、最強の元殺し屋が“普通の高校生活”を全力で生きようとする物語である。


> ……ただし、“普通”が一番難しいらしい。

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