地縛霊視点特別編①
第27話 神嶋七子の1日
昨日はとっても疲れました。
土曜日の深夜に現れた涼葉って人が、昨日は朝から晩までずっと騒いでいたから私は落ち着いて眠れなくて、それで結局日が暮れて霊力が戻って、夜は漫画を読まずに寝てしまったのです。
そして、起きたら月曜日の朝。
一緒に寝ていた多摩川さんは既にお仕事でいなくて、代わりに瑠琉が私に乗っかっていました。
「……瑠琉、朝ご飯食べたんじゃないの?」
私の胸元に耳を下にしてしがみついていた瑠琉が、むくっと顔を上げて私と目を合わせてきます。
「涼葉に食べられた」
「もしかして多摩川さんも食べないでお仕事行ったの?」
「うん」
返事して、胸元に顔をくっつけてくる瑠琉。
その感触で、またパジャマが脱がされてたことが分かりました。
瑠琉はいっつも空腹だと私のパジャマを脱がしてきます。
最初は嫌でしたけど、多摩川さんの持ってる漫画を読んで、瑠琉がどういう気持ちでそれをしてるのか分かったので半ば諦めてます。
でも重いので、ソファにいるはずの三夕さんを呼びます。
「三夕さん、助けてください~」
ソファの方を向いてぐっと手を伸ばすと三夕さんが気付いてくれて、念力で低いテーブルの上にある三夕さん用のチョコをご飯とか食べるテーブルの方に移動してくれました。
すると瑠琉がそれに気づいて、「三夕ありがとー!」と言ってベッドを降りテーブルの方に向かいます。
「……ふう」
朝だからいつもは眠いはずなのに、眠くない。
だからひとまず起き上がって、パジャマのボタンを留めます。
私はベッドからは離れられないので、足だけ出して座り、部屋を見渡します。
瑠琉はいつもの席でチョコを夢中で食べていて、三夕さんはじっとテレビの画面を見つめています。ふとクローゼットの方を見ると扉が開いていて、中から見たことの無い女の子が顔を覗かせてました。
なので声をかけてみます。
「あなたは誰ですか?」
「さ、……りな」
とっても小さな声ですが、この子は沙李奈、という子らしいです。
クローゼットから出られないみたいなので、おそらくクローゼットの地縛霊です。
でもすごく軽装で、寒そう。
「寒くないんですか?」
「……寒くない。ここ暖かいから」
「そうですか。私の場所も暖かいです」
お互いの居場所に共通点を見つけられて、沙李奈はどこか嬉しそうでした。
お昼になると、瑠琉が口の周りに朝食べたチョコを付けてまたベッドに乱入してきました。なので「三夕さんのとこ行ってよ」と言ってみます。
「いないもん」
たしかにソファの方を見ても誰もいないみたいです。
仕方なくまた瑠琉の相手をするかぁと小さく息を吐きますが、口が汚れた状態でパジャマに顔を擦りつけようとしていたので、ぐいっと押し離して枕元にあったティッシュを1枚取って瑠琉の口を拭います。
大人しく拭かれた瑠琉は、ゴミを捨てに行ってから飛びつくように私に抱き付いてきました。いつもは三夕さんが瑠琉の相手をしてくれていますが、今日は珍しく私がこの時間にも実体化ているのでこんなにもくっついてくるのです。
瑠琉は私のことが好きなのでしょうか。
てっきり多摩川さんのことが好きなのかと思ってましたが。
「ねえ瑠琉」
「ん~なに?」
「瑠琉ってそんなに私のこと好きなの?」
さっきみたいにしがみ付いたまま顔だけ上げて、何も返さずにまた耳を下にしてへばりついてきます。
……意味が分からないです。
さすがに重いので、なんとか瑠琉を隣に移動させ、仕返しに今度は私が瑠琉に乗っかって抱き付いてみます。全く重そうな表情を見せず、むしろ眠くなったのか大きくあくびをして目を閉じてしまいました。
私も不意に眠気が誘われ、胸元に耳を下にして抱き付いたまま眠ることにします。
——これはたぶん、夢の中。
そう感じた時には、目の前には私の両親と楽しそうに話す多摩川さんがいました。
私はベッドに座っていて、みんなを見ています。
誰も私の方を見ないです。
それなのに、キッチンの方から活きのいいフグを両手に持った瑠琉が歩いて来て、お母さんがそれを笑顔で受け取って瑠琉を撫でていました。
まるで瑠琉が生きているかのように、両親と多摩川さんと自然に会話してます。
私は夢の中でも死んでいるかのように、瑠琉含め誰も私を見ません。
……悪夢だと思うのに、どうしてか暖かい。
部屋の騒がしさで目を覚まし起き上がると、帰って来た多摩川さんが買って来たと思われるチョコの袋を、瑠琉と涼葉が奪い合いをしてました。
「ごめんね七子ちゃん、起こしちゃったね」
「いえ、大丈夫です」
起きた私に気付いた多摩川さんがベッドまでやってきて、私の頭を撫でてきます。
多摩川さんの手は本当に暖かい。
まるでさっき見た夢のように。
杖を掲げた涼葉がまたほーりーらい、なんちゃらを唱えようとしてたので多摩川さんが慌てて涼葉からその杖を奪い、怒るはずなのに何故か涼葉を抱きしめていました。
多摩川さんは涼葉のことが好きなのでしょうか。
嫉妬はします。
ですが私にはこうゆう時の逃げ場所があるので大丈夫。
ソファでぼーっとしてた三夕さんに目で訴えていると、枕を念力でソファまで持って行ってくれるので、私もソファへ移動して、枕を抱きかかえたまま三夕さんの脚の間に収まります。
晩ご飯を食べ終えてからは、ベッドの前で瑠琉が涼葉から魔法の心得を学ぶそうで、杖を持って熱く語る涼葉の前に瑠琉が正座をしてました。
多摩川さんがお風呂から上がって来るとまっすぐソファに来て隣に座ってくれるので、私は多摩川さんの脚の間に移動して、三人でアニメを観ながら過ごしました。
夜遅くにベッドに戻り、多摩川さんが隣に寝て私を抱き寄せてくれたので、私も多摩川さんを抱きしめ返します。
「七子ちゃん、おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
こうして多摩川さんが先に眠ったことを確認してから、いつも通りベッドの足元へ行って、本棚からゆうはる物語を引っ張り出して続きを楽しみました。
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