エターナル
たぬき屋ぽん吉
プロローグ ありふれた日常と、見慣れないアイコン
春の光が差し込む六畳一間。桜色のレースカーテンが、そよ風に揺れている。机に向かうのは、都立〇〇高校二年生、小野寺 結衣(おのでら ゆい)。教科書や参考書が山積みになった学習机の片隅に置かれたノートPCのディスプレイには、周りの友人たちが見慣れない、鮮やかなグリーンのロゴが鎮座していた。そのロゴは、Linux Mint――彼女の日常に、密かに、そして確実に根を下ろしている存在の証だった。
結衣は、ごく普通の女子高生に見えるだろう。クラスでは目立つ方ではないけれど、友達とのおしゃべりやカフェ巡りは大好きだ。流行りのスイーツやファッションにもそれなりに興味がある。けれど、彼女の心の中には、人とは少し違う、熱い情熱が秘められていた。それは、幼い頃からお父さんの影響で触れてきた、PCの世界だ。特に最近は、その探求心が、無料でありながら無限のカスタマイズ性を秘めたLinuxというOSへと、彼女を導いていた。
WindowsのPCが動きの重さからくる苛立ちを覚えるたびに、結衣の心は、より軽快で自由な世界を求めた。そんな時、偶然立ち寄ったPCショップの店員が、まるで彼女の心の声を聞いたかのように言ったのだ。「Windowsより軽くて、結構何でもできるOSがあるよ」。その言葉が、彼女とLinux Mintとの出会いの始まりだった。初めてMintを起動した時、彼女は衝撃を受けた。余計な広告もなく、動作は驚くほどサクサクと軽快。まるで、重い鎖から解き放たれたかのような解放感だった。もちろん、最初は戸惑うことも多かった。「え、これどうやってインストールするの?」「アプリってどこから探すの?」—Windowsの感覚で操作しようとしては、何度も壁にぶつかった。それでも、結衣はめげなかった。むしろ、その一つ一つの壁を乗り越えるたびに、彼女の好奇心はさらに燃え上がっていった。
彼女のPCに対する情熱は、日々の生活の中にも自然と溶け込んでいた。今日の課題は、情報の授業で出されたプレゼン資料作成。PowerPointやGoogleスライドを使うのが一般的な中、結衣の思考はすでに別の次元へと飛んでいた。「自由に表現しなさい」—先生の一言が、彼女の冒険心をくすぐったのだ。
「よし、今回はMintのLibreOffice Impressでどこまでできるか試してみよう!」
キーボードに置かれた結衣の指が、まるで新しい冒険の始まりを告げるかのように、軽やかに動き出す。ディスプレイの光を反射してキラリと輝くその瞳は、新しい世界へと踏み出す喜びと、無限の可能性への期待に満ちていた。彼女にとって、Linux Mintは単なるOSではない。それは、自身の探求心を刺激し、日常に新しい発見をもたらしてくれる、かけがえのないパートナーなのだ。この見慣れないアイコンが、やがて彼女の人生に、そして彼女の心を揺り動かす恋の物語に、深く関わっていくことになるなど、この時の結衣は知る由もなかった。
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