第11話 Fan

「いやー、かんぱーい!」

 ビール瓶に水のグラスを合わせる。

『嘘! 未成年なの?』

『誕生日遅いんで』

 みたいな会話があった。

「いやー。無事終わった……」

 そんな無事を祝うようなライブなんだ。

「なんか見直しました。伊神さんのこと」

 つまみを箸でとりながら言う。

「ほんと?」

 見直した、を訂正する気力もないみたいだ。

「かっこよかった?」

「はい」

「可愛くもあった?」

「まあまあ」

「照れなくていいよ?」

「じゃあ、凄い可愛かったで良いですよ?」

「やっぱ、あれだけのファンがいるだけあるよね」

 600人ぐらい入るライブハウスが埋まってた。

「あー、再確認」

「再確認するようなことですか?」

「だって、前のライブからちょっと経つとさ、今度ライブやってもファンくるかな? ってなるのよ。で、やったら、ファンいた!」

 もう酔いが回り始めてるのか、言葉が拙い。

「でも……サチはいなかった」

「情緒不安定か」

「だってさあ……まあ、サチは忙しいから仕方ないけどさあ……サチぐらいこう、溺愛してくれるビッグファンが欲しい」

 大ファンをビッグファンって言う呼び方は初耳だ。


「どこかに……あの頃サチぐらい暇そうな……深いファンになってくれる人はいないかなあ……」

 テーブルに突っ伏して、こっちを見上げて来る。

 料理の皿に髪が入りそうだったので、除ける。

「ありがとう、優しいね」

「伊神さんの髪が入った料理食べたくないんで」

「髪まるごと食べさせたげようか?」

 毛先を持ち上げって言ってくる。

「いいですよ」

「まじで? 変態じゃん」

「ああ、いや髪じゃなくて、ファンになっても」

「まじで」

「毎回ライブに行けるわけじゃないですけど、普通にいい曲だし、聞きたいです。ライブもまた見たい」

「おお、やった、ファン増えた。いぇい。サインあげよっか? なんか聞きたいこととかある?」

 ペンがないので、唐揚げのレモンを持って僕に掛けようとしてくる。

「いいです、いいです」

 酔っぱらいの手からレモンを奪って、皿に戻す。

「じゃあ、質問はします」

「はい、なんでしょう」

「バンドマンやってて」

「ソロです」

「ソロやってて嬉しかったことは何ですか」

「えー…なんだろう?」

 うつ伏せになったまま首をひねって考える。

 机の上に飛んだ油とか全部髪に吸い取られてそう。

「ライブ終わりに、さっきライブ見に来てたカップルが、ラブホから出てきたときかな」

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