勇者の友達は学校一の美少女なヤンデレヴァンパイアちゃん!
リヒト
出会い
夜になってもなお明るさの続く街から一歩足を細い裏路地に踏み入れると、途端に街の喧騒が遠のいた。
オレンジ色の明かりが薄く滲むその路地には、割れたアスファルトの隙間に雑草がのぞき、電柱には褪せたチラシが重なって貼られている。風が吹くたびに、ゴミ袋が擦れる音と、どこかで缶を蹴るような音が響いた。
道端には誰かが捨てたコンビニ弁当の空き容器、タバコの吸い殻、そしてカラスの羽根が混ざり合っている。壁の落書きは何度も塗り直された跡がある。
時折、裏路地からは怒号も響き渡っていた。
「え、えっとぉ……」
そんな裏路地の一角で、一人の少年が大男三人に囲まれていた。
「こんなところに一人で来るとかずいぶんと警戒心が足りてねぇじゃねぇか?」
「まっ、俺たちに会ったのが運のツキだ。大人しく金目の物を置いていきな」
「そうすりゃ最低限命だけは取らねぇでやるよ」
「は、ははは……」
三人の大男に囲まれている少年の背丈は周りの人間に比べて明らかに小さい。その背丈は160cm行くか行かないかという程度。
丸眼鏡をつけたその相貌は女の子と見間違えてしまうほどには可愛らしく、決して強さは感じられない。
そんな少年を囲って大の大男が三人がかりで取り囲んでいるのだ。
あまりにもな、光景だろう。
「ほら、さっさと金だせや」
「え、えっと……ですね?」
冷や汗を垂らす少年がゆっくりと動き出した。
そんなときになって。
「醜いわね」
新しい声がこの裏路地に響いてくる。
「小さな少年を三人で囲って……恥ずかしくないのかしら?」
そして、濁った街灯の明かりすら届かぬはずの上空に、淡い光の粒が静かに集まり、そこから、ひとりの少女が音もなく降りてきた。
その姿はまるで空気に溶けるように、静かで、透き通るようだった。ボロ布のような服を身にまといながらも、不思議な重力に抗うようにふわりと宙を舞い、やがて、アスファルトの上に足をつけた瞬間、周囲の雑音が一瞬止んだ。
「……、ァ、……ッ!んだよ。女が何の用だ」
異質だった。
この場に舞い降りた少女が醸し出す雰囲気は。
それでもなお、男は少女へとガン飛ばす。
「なんだ?俺たちにレイプでもされに来たのか?ずいぶんと綺麗な服を着てよぉ」
その少女は可憐な美少女であった。
腰まで流れる銀髪は、一本一本が絹糸のように細く、夜の闇の中でもほのかに光を帯びていた。風が吹くたび、それは静かに揺れ、無重力の中にいるような浮遊感を周囲に与える。
彼女の瞳は深紅。ルビーにも似た艶やかさを持ちながらも、どこか冷たく、底知れない深淵を湛えていた。光が差せば、瞳の奥にかすかな炎が揺れているようにも見えた。
肌は雪のように白く、薄い血管さえ透けるほどに儚い。それでもその存在は強く、まるで触れれば消えてしまいそうでありながら、同時に抗いがたい圧を放っていた。
身につけていたのは、黒に近い深い藍色のワンピース。どこか時代を感じさせる古風なデザインで、裾には細やかな銀の刺繍が施されている。手には白手袋、足元は革靴。そのすべてが、今のこの街には不釣り合いなほど、整いすぎていた。
この場には不釣り合いで、浮いている。
ただ、少なくとも、この可憐な少女がこの場を覆せるようには見えなかった。大男三人に囲まれているのが可憐な美少年と美少女の二人になった。
ただ、それだけでしかないように見た。
「うるさい口ね」
だが、確かにこの少女は少年を助けに来たのだ。
少女が足を一歩踏み出したその瞬間、彼女の背中が蠢き、深紅の翼が伸びる。
ルビーのような赤い瞳が光を帯び、開けられる口からは鋭く長い八重歯が伸びていた。
「ヴァ、ヴァンパイアッ!?」
その姿を見た大男たちは動揺を露わにする。
「あら?何も知らなそうな面の癖に私の種族を知っているのね。感心よ。じゃあ、いい子はこのままおねんねしなさいな。こんな時間までいい子は起きているべきじゃないわ」
その動揺の隙を少女はついた。
背中の翼が一人でに動き、そのままムチのようにしなって大男たちの体を捉えて吹き飛ばし、そのまま壁にまで叩きつける。
「グぇ……」
その重たい一発を受け、意識を保っていられるのは誰もいなかった。
一瞬で、少女は大男三人に囲まれていた少年を助けて見せたのだ。
「あ、あの……ッ!ありが」
目の前の光景に対して目を見開ていた少年はすぐさま少女の方へと視線を向け、そのまま口を開いてお礼の言葉を言おうとする。
「貴方も早く帰りなさいよ」
だが、少年が言葉を言い終わるよりも前に少女はその姿を消してしまうのだった。
■■■■■
「今日はお前たちにいいお知らせがある。良いか、良く聞けよ?」
昨日は散々だった。
ちょっとした野暮用があって普段は行かない路地裏に行ったら男たち三人に取り囲まれてしまうし。
それに、そこで助けてくれた女の子にもお礼を言えずじまいになってしまった。
助けてくれた人には必ずお礼をしなさい。そう教わって育ってきた僕としては中々に受け入れられない光景だ。
「何と、うちのクラスに転校生が来ることになりました。んじゃ、どうぞ。入って」
昨日について後悔の念を持ちながらぼーっと朝のHRでやけにテンションの高い担任の先生を眺めながら、うちのクラスに来るという転校生を待っていると。
「失礼します」
「あっ!昨日の!」
その入ってきた転校生が昨日、助けてくれた女の子であったことに驚き、僕は思わず声をあげてしまうのだった。
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