雨に隠された秘密

いとう

第1話

学校を出ると、激しい雨に見舞われた。


授業を受けている間は気づかなかった。カーテンを閉めていたからだろう


雨は上空から勢いよくやって来て、地面に叩きつけられる

叩きつけられた雨は跳ね返り私の足を濡らしていく。


視界は霧に覆われたように真っ白で

雨がどれだけ強いのか、見ただけでわかる



バケツをひっくり返したような雨という言葉があるが

実際に空からバケツをひっくり返したらこうなるのだと思う。


しかし困った。


私は今日、傘を持って来ていない


普段からニュースを見る方では無かったし、

今日は寝坊をしてそのようなことを気にしている暇すらなかった。


まぁ 家を出る前、母が何か言っていたような気がするが

今ないものはないのだから、気にしても仕方がない。


しかし、そんな事を考えている間にも周りにいる他の生徒は傘をさして帰っていく


ニュースを見ず、寝坊をした私が明らか悪いのだが

一人昇降口に突っ立っている生徒がいるにも関わらず、澄ました顔で

颯爽と帰っていく人達を見ていると、少し腹が立ってくる。


他に傘を忘れた人がいないわけではない。

しかし、そういう人は大抵友達の傘に入り足早に帰っていく


私だって出来ることならそうしてさっさと帰ってしまいたい。


それなのに私の数少ない友人は今日学校を休んでおり、入れてもらえる人はいない。


かなり絶望的な状況だが、いつまでも此処で突っ立っているわけにはいかない


今日は帰った後塾に行かなければいけない。

ギリギリまで学校で雨宿りしていたいが、いつ止むかもわからないこの雨を

待ち続けていたら塾に遅れるかもしれない。


そんな事になってしまえば大目玉を喰らうことは

火を見るより明らかだ


家に帰りたくない。でも一刻も早く帰りたい





そんな事を考えていて、後ろから声をかけられる。


 「えーっと、小島さん…だよね。どうした、傘忘れたの?」


後ろを向くとそこには、クラスメイトの武田さんが立っていた。


「!!」「た、武田さん!は、はい。忘れちゃって…」


普段話さない憧れの人の姿に、

彼に声をかけられたという事実に動揺して

一瞬言葉が詰まってしまう。


「俺もだ」


クシャッとした、普通に過ごしていたら絶対に見れないような彼の笑顔を向けられた。


「ど、どうするの…?」


「ね、どうしよう」


そういう彼の困ったような顔も

凄くカッコよくて。


「わ、私なんてこの後塾なんだよ!本当やらかしちゃった…」



「うわ、大変じゃん。ちなみにいつから?」


「6時」


「後30分じゃん!」



………



… 独りで立っているのが苦痛に感じ

妄想に浸っていると、


雨のカーテンの中で何かが落ちていくのが見えた。


落ちていった何かはドサッとかなり大きな音を立て

近くの地面に着地したようだった


音はかなり大きかった。


いくら雨が強かったとしても、あれ程の音をたてるものが

飛んでくるなんてありえない。


それが何なのか、どうやって飛んできたのか

見当もつかなかった。


知りたい


人間の好奇心というものは恐ろしいもので。

私はそれに抗えず、雨に濡れるのも構わず

それの正体を確認しに行くことにした。



…………………



雨の中のグラウンドは、ぬかるんでいて

一歩足を進めるごとに靴が脱げそうになった。


雨に濡れた服は肌に張り付くし、

靴の中もぐちょぐちょで不快極まりない。


音がしたのは、グラウンドに立つ

木のあたりだった


学校が開校した当初からあるらしい

木々は、子供が腕を回しても届かないほど太く

校舎からでもよく見える立派なもので


夏には青々とした葉をつけ、秋には紅や橙、黄色などに染まる。

美しい木々は、私のお気に入りだ。


木の周りには、それらしい何かは見当たらなかった。



しかし、何もないわけがない


私の耳には確かに聞こえたし、雨の中で視界が悪いから、見当たらないだけかもしれない。


それから私は木々の周りや裏、茂みの中から木の中、思いつくところは全て見て回った


それでも何かは見当たらず、もしかして聞き間違いだったのかもしれない。そんな失望を胸に立ち去ろうとしたその時、


「え!人!?」


はじめに見たはずの木の裏に、一人の少女が倒れているのを見つけた。





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雨に隠された秘密 いとう @musi38

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