第47話 青空市の夏
8月も終わりに近づいた。
夏休みも終わりが見えてきた火曜日である。
火曜日は坂本造園の定休日だ。
造園業だけでなく、お好み焼き「てっぱん」も、さかつくサッカー部も休みになる。
「まちカフェあおい」も合わせて定休日にした。
この日を坂本造園では“ハピちゅ”と呼ぶ。
てっぱんで飲んでいる時、アリスが「ハッピーチューズデー、略して“ハピちゅ”」と命名し、酔っぱらい達が即採用した。
「てっぱん」もサッカー部も休みで、火曜だけは自由になるのだが、わさびは休むことを知らない。
「わさび、お前、休めって言ってんだろ」
社長室にイレの声が響く。
「でも、まちカフェもてっぱんも……売上を上げないと、みんなのお給料が払えなくなるんじゃ……」
「わさびが考えることじゃねぇ。金はなくても、うちにはすげぇ社員って財産がある。なんとかなる」
「でも、まちカフェは全然売り上げなくて……」
「すげぇ社員にはお前も含まれてる。もちろんヨウもだ」
「ヨウは……どこに行ったんですか。というか、無断欠勤してクビになっちゃいませんか?」
急にヨウの話が出てきたので、話が横にそれる。
「話を逸らして悪かったな……。
いろいろあるんだよ。
ヨウのことは俺に免じて目をつぶれ。あいつは特命業務中だと思っとけ」
「連絡は……取れてるんですか?」
「いや、取れてねぇ。でも大丈夫だ。俺のダチ……テンが面倒見てる。ま、あいつは変なやつだが、大丈夫だよ」
「テンさんとは連絡取れてるんですか?」
「いーや。でも大丈夫だよ」
わけがわからない。
でも今日の主題はヨウじゃない。
わさびは顔を上げ、イレに向き直った。
「イレさん、農家さんへのお願い、引き受けていただけましたか?」
「おう、全部アポは取った。準備はいいか?」
---
花火大会の大成功で始まった「まちカフェ」も、その後はなかなか客足が伸びない。
何かやらなければと、わさび、夏海、ユミ、アリスで夜な夜な考えた結果、「フルーツを楽しめる庭園にしよう!」と決まった。
「あおい庭園」を日本一の庭園にする。
何をもって日本一なのか答えは出せないが、来る人が楽しんでくれる庭園にしようと決めたのだ。
夏休みが終わりに近づいた青空市は、ぶどうが最盛期を迎え、ブルーベリーも終盤に差し掛かっている。
夜明け前から農家が収穫に動き、果物は各地へ出荷されていく。
「今日は農家さんを回って、青空市の夏を存分に味わえる場所を作りましょう!!」
まちカフェに集まった夏海、ユミ、そしてアリスに向かって、わさびが気合いを入れる。
アリスは夏休み中だから、今日は一緒に動けるのだ。
「やってやるっす」
夏海もやる気だ。
そのとき、小型トラックのクラクションがまちカフェに響いた。
「おーい!早く乗れー!」
運転席からイレが手を振る。
すごくいい感じ。
いい感じだけど、これで合ってるのかな?
不安を抱えつつ、とにかく、わさびは前に進む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます