第48話 青空市の夏2
イレの運転するトラックで最初に訪れたのは、山あいにある青空いちご農園だった。
わさびとヨウが初めて青空市に観光で訪れた農園、青空農園。いちごだけでなく、桃やさくらんぼ、ブルーベリー、ぶどうと、たくさんの果物を育てているらしい。
農園の入り口に構える直売所の前にトラックを停めたイレご一行を、農園のおばちゃんが出迎えてくれた。
あらかじめ、イレとわさび、夏海の3人は仕入れの交渉を担当し、アリスとユミは農園内を見て回りながら、まちカフェでの販売イメージ作りを担当する役割分担を決めていた。
さっそくアリスとユミは園内の散策に向かった。
「あんた、久しぶりだね」
わさびを見つけた農園のおばちゃんが、気さくに声をかけてきた。
「覚えてるんですか?一度、いちご狩りに来ただけですし、あれからもう何カ月も経っていますよ」
「そりゃあ、あんたは有名人だもの。あおい庭園、花火大会の日に行ったのよ。あのとき、いちご狩りに来てた子だって一目で分かったわ。
花火の日は、あんたも忙しそうで声をかけそびれちゃったけど、あの日は本当に楽しかったわ」
「花火大会に来てくれてたんですね。とっても嬉しいです。今、あおい庭園の売りを考えていて……やっぱり青空市といえば果物だなって思ったんです。それでお話に来たんです」
「それは嬉しいね。今だとぶどうが食べごろだよ。ほれ、あの辺りのぶどうが、あんたんところに卸す分だよ」
おばちゃんが、少し奥まったところで実っているぶどう棚を指さした。
「え?まだ、何もお話してないのに……」
「でも、約束通りだろ?9月からって約束だったから、少し早いけどね。もうそろそろ来ると思ってたんだよ」
わさびは訳が分からず、隣に立つイレに問いかけるように目を向けた。
「俺も知らねぇなぁ。どういうこったい?」
「どういうことも何も、あんたんところの社員が来て契約してるじゃないかい。イレさん、あんた社長なのに聞いてないのかい?」
「社員って………、もしかしてヨウか!?」
「ヨウって名前だったかねぇ………。えっと、確か名刺がここに。ほら、この人だよ」
株式会社 坂本造園
総務部 松本 八
「確かにヨウだな。あの野郎、俺に報告してないとは何事だ!!……って、あいつがいなくなった頃は、俺も来客が続いて話すタイミングがなかったかもな。しまった、あいつの業務日誌を読んでねえや」
この人、社長で大丈夫なの?
わさびは心の中で思わずツッコミを入れながら、契約の詳細を確認する。
9月1日から収穫終了までの間、1日5キロのぶどうを定期購入し、配送の契約まで整っていた。
「なんで9月1日からなのかな?」
「大方、準備が必要だったんだろ。帰ったら業務日誌を読んでみな」
「もう、ヨウったら……なんで言ってくれないのよ」
「いやいや、わさびさん。あの時、かなり強引にヨウさんを競馬場に行かせてたっす。言うタイミングなかったっすよ。それに、ヨウさんもすぐ帰ってくるつもりだったと思うっす」
夏海があきれたようにわさびにツッコミを入れた。
その後は、入荷予定のぶどうについておばちゃんからレクチャーを受けた。食べごろや保存方法など、みんなでメモを取りながら、時々試食もした。
「「美味しい!」」「美味しいです〜」
すんなりと商談も終わり、楽しい気持ちでわさびたちは農園を後にした。
帰って業務日誌を確認したところ、果物保存用の棚や冷蔵庫のリース契約が細かく書かれていた。
「危ない、気づいて良かった〜」
わさびは胸をなでおろした。
もう、ヨウは………。
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