第2話「爆発しても、いいんですか?」

 クラウディアは椅子に座っていた。彼女専用の椅子。背もたれには、自分の名前がちゃんと刻まれている。今ではもう、ここが自分の居場所だと、心から思っていた。


「先輩は議会だっけ。よーし、今日は私がちょっとだけ、研究の手伝いを……!」


 研究机に置かれた魔導機関を見つめながら、クラウディアはうずうずしていた。昨日までの試験データを見る限り、この機関の魔力伝導効率は悪くない――けど、まだいける気がする。ほんの少しだけ、コアの配線を調整してみれば……。


「爆発しないように、魔力制御陣も入れておこ。完璧!」


 そう言いながら、魔力を流し込んだ、その瞬間だった。


 ――ドゴォォォォォン!!


 閃光、轟音、魔力の余波、全てが爆ぜた。研究机は真っ黒に焦げ、壁には煤。クラウディアのスカートの裾がふわっと舞い上がっていた。


「…………」


 動けなかった。恐怖じゃなく、絶望だった。やってしまった、と思った。


 扉が開く音がした。

────────────────────────

 クラウディアはゆっくり振り返った。そこにいたのは、いつものように無表情な、けれど、今は少しだけ眉を寄せている先輩だった。


「……あの、ごめんなさい……!」


 声が震えた。自分の胸に残っていた椅子の感触が、一気に冷たくなる気がした。


「私……もう、ここに来ちゃダメだよね……。私のせいで、研究室、めちゃくちゃにして……椅子も、燃えちゃったかも……」


 視界が滲んだ。椅子を見ようとするのが怖かった。失いたくなかった。でも、自分が壊したのだ。


「……アホか」


 先輩の声が聞こえた。


「お前は、そういう奴だって、最初からわかってた」


 クラウディアは涙を拭いながら顔を上げる。


「だから椅子を作った。爆発しようが何しようが、お前の場所はそこにある。……たぶん、また焦がすとは思ってた」


「……うわぁああん!!」


 クラウディアは泣きながら、先輩の前に飛び込んだ。抱きつく代わりに、スカートの裾をぐしゃぐしゃ握って、精一杯、泣いた。


────────────────────────


 翌朝。


「おはようございますっ! 今日もがんばります、先輩っ!」


 元気に挨拶しながらクラウディアは研究室に駆け込んだ。スカートは新調したばかり、リボンも結び直した。全身から「元気復活!」オーラが溢れている。


「お前、昨日泣いてたの、何だったんだ……」と先輩はつぶやく。


「いいんです! 失敗しても、私はまた立ち上がるって、決めたんですから!」


 その後。


 再び閃光。


 再び轟音。


 そして、もこもこアフロのクラウディアが、煙の中から登場した。


「……てへ?」

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〈研究ノートより抜粋〉


日付:4月19日

天候:晴れ(でも煙はモクモク)

気分:アフロだけど、しあわせ!


失敗して、全部なくなるって思った。

でも先輩は、「それもお前のいいところだ」って言ってくれた。

だったら私、何度だって立ち上がれる気がする。

次は爆発しないように……たぶん……ううん、がんばる!


……とか言ってみたり。



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