クラウディアの研究ノート
TamaOnion(たまお)
第1章 クラウディアの入学式
第1話 「私の椅子」
第1話「私の椅子」
入学式の余韻がまだ残る校舎の廊下で、クラウディアは目を輝かせていた。
さっき見た魔導発表会――その中にあった、一際奇妙な装置。小さな筒に複雑な魔法陣が刻まれ、スイッチ一つで魔法を発動するという代物。解説はなかった。でも、彼女は直感で理解した。
「……これは、生活を変える発明だ!」
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その夜、彼女はその装置の展示番号から担当研究室を割り出し、地図を片手に校舎の奥へ走った。
「ごめんくださ──」
ガチャン!!
次の瞬間、爆音と共に研究室の奥で何かが閃き、クラウディアの視界が真っ白になった。
煙が晴れた頃には、彼女の髪は盛大に広がり、天然パーマのごとくアフロ化していた。
「……殺すぞ」
部屋の奥にいた少年――研究室の主は、冷え切った声でそう呟いた。
クラウディアは思わず手を挙げて笑う。
「は、はじめましてっ! クラウディアですっ!」
「帰れ」
即答だった。
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翌日から、クラウディアは毎朝研究室を訪ねた。
初日は、自己紹介と謝罪を記した手紙。
二日目は、手作りの魔力安定装置(未完成)を添えて。
三日目には、詫び菓子(甘すぎて固まっていた)。
四日目、五日目……彼女は諦めなかった。
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「ねえ、いい加減にしなさいよ」
ミレーユがため息をつく。「爆破犯が毎日通うって、どういう神経?」
「でも……」クラウディアはノートを抱きしめて言った。
「私、あの人の研究に――あの人自身に、惹かれたの。あれって、きっと誰にも見つけてもらえなかった研究で、ずっと一人でやってきたんだと思う」
それは、自分自身と重なるものだった。
理解されないこと。居場所がないこと。
だからこそ、諦めたくなかった。
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八日目の朝。クラウディアは、心の中で区切りをつけていた。
「今日で終わりにしよう。……それで、断られたら、ちゃんと謝って帰る」
深呼吸をして、ドアをノックする。返事はない。そっと扉を押し開ける。
そこにあったのは――見慣れない、小さな木製の椅子だった。
背もたれに、丁寧に刻まれた文字。
『Claudia』
クラウディアは唇を噛んで、そっと椅子に腰かけた。背筋が伸びる。足がちょっとだけ宙に浮く。
でも、不思議と、心は地に足がついたように感じた。
「……あの」
思わず声が漏れる。
先輩は、いつものように机に背を向けたまま、小さく言った。
「勝手に使え。ただし、爆発させんな」
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〈研究ノートより抜粋〉
日付 4月12日
天候 晴れ
気分 幸せ(でもちょっとドキドキ)
椅子って、ただの家具だと思ってた。
でもこれはきっと、「ここにいていい」って言ってもらえた証なんだ。
研究って、一人でできると思ってた。でも、そうじゃなかった。
わたし、きっと――これから、もっと強くなる。
……とか言ってみたり。
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