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静かな部屋。間接照明だけが灯る中、
私はスマホとマイクの前に座っていた。
画面に顔は映っていない。
映っているのは、指先と、ギター、
そして時おり揺れる影だけ。
「こんばんは、MYです」
配信が始まると、すぐにコメント欄が賑わう。
「新曲すごくよかった!」
「歌詞が沁みた…」
「茉耶ちゃんの恋、応援してる🥺」
茉耶はくすっと笑いながら、画面を見つめる。
「……ありがとう。今日は少しだけ、制作の話とかしようかなって思ってます」
言いながらギターを手に取り、ゆるくコードを鳴らす。
「新曲、“届かない声”っていうタイトルなんだけど……」
「この曲、実はね、ちょっとだけ実体験が混ざってます」
コメント欄がざわつく。
「え、実体験!?」
「気になる!」「好きな人いるの!?」
「まあ……好きかどうかは置いといて」
「“誰かの存在が、毎日を少しだけ明るくしてくれる”って、そう思ったこと、ありませんか?」
そう言ったあと、ふっと笑って、
さりげなく視線を落とす。
「わたしにとってその人は、昔から“味方”でいてくれた人。……今も、たぶん」
ギターをポロン、とつま弾く。
「……そんな人のことを思いながら、作った曲です」
茉耶の声が少しだけ震えていたのは、
それが“届いてほしい誰か”を、無意識に思い浮かべていたから。
コメント欄には“羨ましい”
“泣きそう”の文字が並ぶ。
でもその画面の向こうに、
李玖がいるかもしれないなんて思うと、
胸の奥がすこしだけ熱くなった。
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