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16時半、大学の正門前。




茉耶が着くと、すでに李玖がいて、




イヤホンを外しながら




「おつかれ」と軽く笑った。




「今日、風強いね」





「ね。春のくせにちょっと冷たい」




そんな他愛ないやり取りをしながら




並んで歩く道は、




どこか気まずくもなく、




沈黙すら心地よかった。







着いたのは、小さなカフェ。




ガラス張りの店内には落ち着いた音楽が流れ、




奥にはふたりがけの窓際席が空いていた。




「……あ、あそこ空いてる」


 


「ナイス」




向かい合って腰を下ろすと、




ふたりとも少し笑ってしまう。




なんてことない、ただのカフェなのに──




この空間が少し特別に感じる。




2人とも、ブラックコーヒーを頼むあたりが、




私たちが大人になってきた、証拠だった。




「ねぇ、李玖ってさ」




カップを持ち上げる手を止めて、




ふと口を開く。




「どうして、法学部にしたの?」




「……ああ、それ?」




李玖は少しだけ驚いた顔をして、




それからコーヒーを見つめたまま、




ぽつりと続けた。




「高校のときから、ずっと考えてたんだ。

――もし、あの夜、間に合ってなかったらって」




茉耶の指先が少しだけ揺れる。




「守れる人になりたいって、思った。

……ただの通報じゃなくて、ちゃんと法律の力で、“もう二度と繰り返させない”って、言える人になりたいって」




「……それって」




「検察官。目指してる。まだ遠いけどな」




茉耶はその言葉を、




ゆっくりと噛みしめるように聞いていた。




そして、小さく笑った。




「……李玖っぽい」




「どこが」




「優しくて、まっすぐで、変なとこで頑固」





「褒めてる?」




「うん。すごく、ね」




ふたりの間に、また少しだけ静けさが流れた。




でもその沈黙は、重くも気まずくもなくて、




ただ、お互いの“これまで”と“これから”が




そっと重なり合うような、




あたたかいものだった。











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