再会は、突然に。
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「なにこの曲、めっちゃいいじゃん。
最近TikTokでもバズってるんだよな!」
友達がふと見せてきたスマホの画面には、
ギターの音に合わせて静かに響く女性の歌声。
顔は映っていない。
ただ、マイクとギター、それだけ。
でも——声を聞いた瞬間、
胸の奥が、ぎゅっと掴まれた。
「……え、この人、名前なんて言うの?」
「“MY”《マイ》って名前で活動してるらしい。詳しいことは全然出てこないけど、顔出しNGなんだって」
“MY”。
……まさか、とは思った。けど、でも。
この声を、忘れるはずがなかった。
震えていた夜。
名前を呼ばれたあの瞬間。
抱きしめた背中ごしに聞こえた、かすれた声。
間違いなく、茉耶だった。
そこからは、寝る間も惜しんで情報を探した。
SNS、YouTube、
ストリーミングのプロフィール。
でも、顔も素性も一切出していない。
代わりに目についたのは、
コメント欄にあふれる言葉だった。
「歌詞が胸に刺さる」
「この人、過去に何があったんだろう」
「声に泣きそうになるの初めて」
みんなが、彼女の声に惹かれていた。
でも——俺だけが、
この声の“正体”を知っている気がした。
あの日から5年。
忘れたくても、忘れられなかった。
声だけで、たどり着いてしまうくらいに。
そんなある日。
いつものように
大学の中庭を歩いていたときだった。
ベンチの端に座って、
イヤホンで何かを聞いている女の子。
髪の毛が少し伸びて、
雰囲気も変わっていたけど——
何か、感じた。
あのときと同じ、
ほんの少しだけ寂しげな横顔。
風が通り抜けた瞬間、
ふと、彼女が顔を上げた。
その瞳が、こっちを向いた。
鼓動が跳ねた。
「……茉耶?」
そう、名前が喉の奥で震えた。
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