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次に私が目を開けたとき、
見慣れない白い天井があった。
隣の椅子に、寝ぐせのついた髪の李玖が座っている。
「……起きた」
ほっとしたように呟く声。
でも、その声は震えていた。
「ごめん。……俺、もっと早く出てたら」
「……違うよ」
茉耶の声は、かすれていたけど、はっきりしていた。
「来てくれたじゃん。ちゃんと……来てくれた」
「間に合わなかったのに」
「でも……李玖がいてくれたから、今ここにいられる」
その言葉に、李玖はぎゅっと拳を握って目を伏せた。
言葉じゃ言い表せない後悔と安堵が、
混ざり合っていた。
茉耶がそう言ったとき、李玖は少しだけ顔をゆがめた。
自分を責めるように、そして、悔しそうに。
「茉耶。俺、あの時……お前の電話、最初のコールで気づけなかった。
知来てたのに、気づかなくて……10秒でも早く出てたらって、何回も思った」
「……それでも、来てくれた」
茉耶の声はかすれていたけど、強かった。
ちゃんと、まっすぐに李玖を見ていた。
「私、ずっとひとりだと思ってたんだよ。
誰にも言えなくて、言っちゃいけないって思ってて。
でも……李玖だけには、言ってもいいのかもって思ったの。あの夜」
静かな沈黙。
窓の外では、朝焼けが少しずつ滲みはじめていた。
「……俺じゃ、頼りないかもしれないけど」
李玖は、ベッドのシーツの端を握りしめる。
「それでも、お前が助けてって言ったら、何回でも行くから。今度は間に合うように、いつだってすぐ駆けつけるから」
茉耶の目に、じわりと涙がにじんだ。
「ねえ、李玖……」
「ん?」
「……もし、私がいなくなっても、忘れないでね」
ぽつりと、まるで予感のようにつぶやいたその言葉に、
李玖はすぐに「忘れない」って返すことができなかった。
ただ、無言で茉耶の手を握った。
ぬくもりが、繋がっていた。
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