人間失明眼少年症候群
ツルギ
第1話 結晶
僕は人を見てはいけない人間。
生まれつきそうなった訳では無いのだが、
幼い頃、黒いフードを被って仮面を付けていた人に話しかけられ…
『汝はあと数年で死ぬ。汝の病によって…
早死したくなければ、吾と取引をしよう。
不死身になる代わりに、汝の人間を見れる能力を吾に譲渡する。
その代償として汝は、人間と目を合わすとその人間が消える、"人間失明眼症候群"という呪いをかけられる。
吾にかかっていた呪いだ。』
と、取引を持ちかけられた。
その時はまだ幼く、そんな難しい言葉…
わかるわけもなかった。
だが数分考えていると、何故かその意味がわかったのだ。
勿論、最初は断ろうとした。
人がろくに見えず、目を合わせたら死ぬとなると…
僕の両親がそうなるかもしれない。
だが突然、口が言うことを効かなくなり…
『わかった。取引しよう。』
と言ってしまった。
怖くなった僕は家に帰ってすぐ、
両親と目を合わせず取引の事について話した。
すると両親は動揺すること無く、
話を受けいれた。
そこから十数年、
僕は人を死なすことなく過ごした。
と、思いたかった。
だがそれは、叶わぬ人生に過ぎなかった。
僕が今まで死なせてきた数は今や数え切れない…
両親も友達もふと目が合ってしまい、
死んでしまった。
見知らぬ人も死なせてしまい、
僕の心の傷は大きくなっていった。
まるで、使えなくなり棄てられ、
もうすぐで焼却炉で燃やされてしまう玩具のよう。
いっそその人生を味わってみようかなと思ったぐらいだ。
でも僕は不死身だ。
自ら命を絶つことなど、出来ないのだ。
ずっと生きていたいと思っている人は、
きっとその能力を欲しがるだろうが、
死んでいく人を見ながら生きるというのはとても耐えられない…
だが、彼との取引はもう幼い頃にしてしまった。
だから能力を取り替えてと言っても断るに決まっている。
ずっとそんな事が頭の中に回り続け、
気付けば僕は、
壊れて動く事も声を出すことも出来ないロボットと化していた。
現在無職で何を食っても腹は膨れず、
何故か味がしない。
味覚障害なんて持ってなかったが、
きっと嫌な事を考え過ぎて感覚が麻痺したんだろう。
とある日の朝。
目が覚め、複雑な感情を抱きつつもベットから起き、
気分転換にと外へ出た。
いつもの公園で、
人を目を合わせないように見つめながら歩く。
しかし、僕はその時、
誰かにつけられているような感覚がした。
だが、後ろを振り向いても誰もいない。
気の所為かと思ってまた歩く。
そしてまた誰かにつけられている感覚が蘇る。
また振り返る…
その繰り返し。
どうしても気になるので、一旦止まってみることにした。
すると、幼く可愛げのある女の子が前に出てきた。
僕は目を合わせないように視線を逸らすが、
女の子は特になんの不満もなく、
寧ろ僕の視線を歓迎している様子で、
僕の目の前に突っ立っている。
『目を合わせてもいいよ。
私も貴方と同じ呪いをつけられているもの。』
その言葉を聞き、僕は震えながらも女の子の方に顔を向ける。
視線もゆっくり、女の子の方に向ける。
本当に大丈夫なんだろうかと不安になりながらも、
目線を合わせる。
すると、僕は驚きすぐさま涙を流した。
人の顔をようやく…ようやく見れたことに感動した。
今まで目を合わせたら一瞬で死に、
骨も残らず消えてゆき、
僕の心に傷を負わせていったのだが…
この女の子は消えることなく、
笑みを浮かべ、
僕の身体をぎゅっと抱き締めてくれた。
これ程嬉しいことは無い…
これ程喜びを味わったことは無い。
でもこの子は何故、
僕の前に現れたのか…その事を尋ねると
『…家に済ませて欲しい!』
と迷わず言った。
人間失明眼少年症候群 ツルギ @mokugi
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